滑る路面に悪戦苦闘! 走って、学んで、できるようになる!! 新イベント「ドリフトテスト」が名阪スポーツランドで初開催

レポート ドリフト オートテスト

2023年12月8日

第1回「ドリフトテスト」が名阪スポーツランドDコースで開催された。これはオートテストのドリフト版とも言える新たな試みで、ドリフト走行の基礎技術の優劣を審判員が判定する形式で行われた。ここでは12月に行われたパイロットイベントの模様をお届け!

第1回「JAF ドリフトテスト2023」
開催日:2023年12月2日(土)
開催地:名阪スポーツランドDコース(奈良県山添村)
主催:RC NARA 協力:JAF関西本部、JAF奈良支部

名阪スポーツランドDコースを舞台に、新イベント「ドリフトテスト」が、「俺だっ!レーシング」などの全面協力を受け、JAF加盟クラブ「RC NARA」の主催で開催された。
D1グランプリ公式実況を務める鈴木学氏が大会の実況を担当し、運営やコンテストの審判にも携わった。講師助手を担当した時田雅義氏はコンテストの審判員も務めている。
「俺だっ!レーシング」所属のD1ドライバー最上弦毅選手が講師を務め、本番車による同乗走行も担当。名阪をホームコースとする中下高志選手も講師助手を務めてくれた。

 JAFが主導する新たなイベント「ドリフトテスト」の第1回大会が、2023年12月2日に奈良県の名阪スポーツランドDコースで開催された。このイベントは「オートテストのドリフト競技版」とも言える新機軸で、参加のハードルを下げて、純粋にドリフトの”ド”を学び、体感できる大会として初めて開催された。

 このドリフトテストは、2023年4月に組織された「JAFオートテスト・ドリフト振興活性化作業部会」(小西俊嗣座長)の主導により企画されたものだ。作業部会ではドリフト業界の現状を調査しながら試行錯誤を繰り返し、すでに多くの開催実績があるオートテストにおける「マイカーでそのまま出場できる」コンセプトを踏襲して、より高度な運転技術を集中的に学べる機会として実現することになった。

 競技種目は「ドリフト」で、今回はJAF公認クローズド競技として開催。参加車両は登録番号標付きのパーキングブレーキレバー装着車に限られた。ダブルエントリーは認められるものの同乗者は「講師のみ」という条件も付加。ハイグリップタイヤの装着は禁止され、オートテストとは異なり、フルフェイスヘルメットとグローブの装着を義務としていた。

 実際、どのような走行を目的とした試みなのかが気になるところだが、走行方法は、1台の車両がランニングスタート方式で競技コースを走行する単走走行とされ、審判員の判定は、いわゆる“ドリフト駐車”の優劣について、加点または減点判定する形式が採用された。

 具体的には、パイロンで設定した参加車両のサイズ+αのガレージに、ドリフト走行で車体(四輪)をしっかり入れるという走行で、採点方法は、ガレージ内に入った車体の一輪につき20点が与えられ、「パイロンタッチ」は一本につき枚5点減点、ドリフト走行でガレージ入庫できた場合には、主観審査により最大20点が加点されるというものだった。

JAF公認競技は、基本的には走行タイムの優劣や着順で成績が決まる形式が多いが、ドリフト競技は走行タイムだけではなく、いわゆる”芸術点”が評価軸の中心となる。JAF公認ドリフト競技のD1グランプリでは、走行速度やドリフトアングルの大小や、ドリフト振り出しのクイックさと精度、タイミングの適切さなどを機械計測と審査員の主観審査を組み合わせた採点により成績・順位が決められている。

 今大会は、ドリフト競技で求められる走行技術の習得が意識されているが、ドリフト走行の基礎技術の優劣は審判員による加点・減点で判定される。オートテストも、走行タイムを減点に読み替えて「運転の正確さ」を評価する方法を採っているため、この形式は、オートテスト参加者にとっても親和性のある形式と言えるだろう。

 12月2日に行われた第1回大会は、奈良県のJAF加盟クラブ「RC NARA」がオーガナイザーを担当し、D1グランプリに参戦するレーシングチーム「俺だっ!レーシング」の全面協力により開催にこぎつけた。

 イベントは定員の20名がすぐ埋まる盛況ぶりで、近畿を中心に西日本エリアから18名がマイカーとともに会場を訪れた。参加車両も軽自動車からオートマのセダン、後輪駆動や四輪駆動のスポーツモデルなどとバリエーションが豊富で、改造についても、サーキット仕様やジムカーナ仕様の車両もあったが、ほとんどがノーマル車という状況だった。

 この大会には、D1グランプリの公式実況を務める鈴木学氏が全面協力してくれており、ドリフトテストの軸となる新たな審査方法のブラッシュアップや実際の運用方法、そしてスムーズなイベント運営に関する提言などについて惜しみない尽力があった。

 講師としても、今シーズンからD1グランプリにステップアップを果たした「俺だっ!レーシング」所属のD1ドライバー最上弦毅選手が参加。講師助手はチーム総監督でありJAFスピード競技ターマック部会の委員でもある時田雅義氏と名阪スポーツランドをホームコースとする中下高志選手が務め、模範走行やデモ走行などを披露してくれた。

 今大会は、2回の練習走行を経て、最後に順位を決めるコンテストが行われる。いわゆる“ドリフト駐車”は、初心者向けのドリフト練習会でよく行われる催しではあるが、経験豊富な審判員が明確な採点基準をもとに走行を判定して順位を決定することで、JAF公認ドリフト競技の要件を満たす格好となっていた。

 昼12時のゲートオープンに参加者がマイカーで集まり、指定のパドックに駐車した後に参加確認受付を行い、パドックを巡回する競技車両検査を受け、12時30分からのドライバーズブリーフィングに臨んだ。ここでは、今大会の実況アナウンスを務める鈴木学氏が中心となり、時田氏とともに競技の概要と判定・採点方法、信号旗の説明などが行われた。

 13時からは模範走行が行われ、続いて、参加者を2グループに分けた練習走行が2回行われた。コースレイアウトは、1本パイロンのターンセクションと、ガレージへのドリフト入庫セクションの2種類で構成され、最初の練習走行では慣熟走行の意味を含めて、1本パイロンのターン走行だけが集中的に実施された。2回目の練習走行では、前半のターンとガレージ入庫を組み合わせた走行となり、その後は、鈴木学氏と時田氏が審判員を務めるドリフトコンテストに臨むというスケジュールとなっていた。

 いざ始まった練習走行では、鈴木学氏と最上選手がすべての参加者の走行を丁寧に観察して、目的のドリフト走行ができるようになるためのアドバイスを行っていた。アドバイスの伝達については、場内実況を走行車内で聞けるようにしており、参加者はリアルタイムで講師の評価を得られるようにもなっていた。また、練習走行の前には走行路面に散水も行われており、どんな車両仕様でも滑りやすい路面を得られ、車体やタイヤへの負担を軽減できることから、ユーザー目線に立ったあらゆる配慮が各所に盛り込まれていた。

 また、参加車両の駆動方式やトランスミッション形式がさまざまであったため、実際の操作としては、ドリフト走行というよりはサイドターン状態にせざるを得ない車両も多かった。しかし、今回の講師陣は「とにかく車両がスライドする感覚を掴んでもらうこと」を統一見解としていたため、車体の向きを変えること、そして、その走行で得られた技術を駆使してガレージに車体を収めることを目的としたフレキシブルな助言がなされていた。

 実際、参加者の経験もさまざまで、サーキット走行やジムカーナ経験者、ラリーナビゲーター、オートテスト経験者、そして、スポーツ走行自体が初体験という具合に玉石混交だった。そのため、第1回としては、ガレージ入庫セクションだけを競技(判定)区間としていた。いずれは、競技(判定)区間を拡大することや、通過速度などの優劣も加味した、より競技性の高いイベントにすることも検討されているという。

 参加者の走行を見ていると、スポーツ走行未経験者の人でも、練習走行の序盤ではフルノーマル車由来によりグリップ走行だったものが、走行回数が増えるにつれて車体をスライドさせられるようになった人も現れていた。そして、スポーツ走行経験者にとってもピタリと四輪を入庫させる走りは難しいようで、1回は決められても次の走行では失敗するなど、それぞれの経験をアップデートさせる必要性を感じられる機会となっていたようだ。

 そして、迎えたコンテストでは、進入のテールスライドからピタリとガレージ内に四輪を収める参加者も登場。その収まり方がとてもキレイに決まったため、場内からは思わず拍手が起こる状況もあった。フルノーマル車や前輪駆動車などはテールスライド状態に持ち込むこと自体が難しく、コンテストを迎えても成功に至った参加は多くはなかったが、目的が明確だったこともあり、悔しい表情とともにリベンジを誓う声も多く聞こえていた。

「できないことができるようになる」という瞬間は、恐らく誰にとっても嬉しいものでああり、多くの参加者は、半日という短い時間ではあったが、目的が明確であるが故に修練に集中できていたようだ。そして、技術の習得に打ち込むひたむきな姿は思わず応援したくなるもので、うまく決まった走りについては各所から温かい拍手が贈られていた。

 ドリフト業界も、他のスピード競技と同様に、参加車両のスペックやドライバーの技術面が先鋭化している現実がある。ドリフト走行に興味があるものの参加するまでには至らない人々も少なくないため、それら潜在層の需要を満たすイベントの創出が叫ばれていた。

 世界的にも、ドリフト競技のヒエラルキーやステップアップ・ラダーの整備・構築が進んでおり、国内においてもドリフト競技の日本選手権の制定や選手権大会の開催も実現しつつある。そして、どんな業界もさらなる振興・活性化にはグラスルーツ領域が欠かせないもので、そこへのJAFからの提案の一つが今回の「ドリフトテスト」であったと言えよう。

 実際のところ、このイベントにはドリフト走行に限らず、ジムカーナを始めとした多くの競技カテゴリーに活きる技術習得のヒントが数多く含まれていた。オートテスト参加者の新たな選択肢として、かつドリフト走行会やジムカーナ練習会の「一歩手前」を受け持つ存在として、この新たな試みが継続的に開催され、全国展開されることに期待したい。

12時のゲートオープンと同時に事前申込した参加者がマイカーとともに入場。ドリフト走行に適している後輪駆動車だけではなく、前輪駆動や四輪駆動車も多く集まった。
参加確認受付を行い、指定のゼッケンを貼り付けて走行準備を開始する。パドックには車検員が巡回して、走行に支障の出ないことが確認されると車検OKのサインがもらえる。
スタート後にS字状に旋回して1本パイロンをドリフトで回る。その後は5本パイロンで構成されたガレージにドリフトで進入して停車。今回の競技(判定)区間はこのガレージのセクションに限定され、停車した時点でチェッカーが振られていた。
事前打合せで想定したコースレイアウトに“見せる要素”を加味するため、鈴木学氏や時田氏、小西競技長らによる入念な検討が行われ、観る側も手に汗握るレイアウトが実現した。
RC NARAのメンバーたちが、変更されたコース図をもとに安全な競技運営ができるようオフィシャル配置を検討。彼らは2015年にオートテスト第1回大会も担当した精鋭だ。
ドライバーズブリーフィングでは、鈴木学氏が中心となって参加者に競技の概要や順位の決め方、判定方法、信号旗の説明などを行い、参加者との質疑応答もしっかり行われた。
走行エリアに散水することも今大会の大きな特徴の一つ。小西競技長が自ら散水を担当し、路面を滑りやすく、かつ車両やタイヤへの負担を軽減する措置が採られていた。
いよいよ練習走行。参加者はA、B組に分かれてそれぞれ25分の枠で走ることができた。コース違いで2回の走行枠が用意され、合計50分の練習走行時間が設定されていた。
「練習はパイロンに当てても構いません」という鈴木学氏の掛け声で、積極的な走りが見られた練習走行。最上選手からは参加者に丁寧なドライビングの指導が行われていた。
最初はアンダーステアやオーバーステアが頻発する状況だったが、走行を重ねるごとにテールスライドやドリフト走行がカタチになっていく参加者も多く見られた。
練習走行の後は、鈴木学氏と時田氏が審判員を務めるコンテストを実施。ガレージに収まったタイヤの本数で加点判定がなされ、進入のアプローチには主観審査が加味されていた。
いわゆる「ドリフト駐車」コンテストは、二人の審判員の判定結果の合計が高い選手が上位になる。それぞれ2回の走行が行われ、どちらか良い方の点数が順位決定に反映された。
大会の最後には「俺だっ!レーシング」の最上選手が抽選で選ばれた参加者の同乗走行を披露。路面温度が低く、狭いコースにも関わらず、迫力のドリフト走行を披露してくれた。
今大会はトヨタユナイテッド奈良を始め、横浜ゴムやエクセディなど多くの自動車関連企業の協力により開催されており、協賛各社からは数多くの賞典の副賞が寄せられていた。
表彰式も行われ、講師を務めた最上選手が副賞のプレゼンターを務め、JAF関西本部の金原秀行事務局長が上位3名に対して金・銀・銅のJAFメダルを授与してくれた。
上位6名の集合写真。優勝はGRヤリスの余吾泰衡選手。2位はインプレッサS204の宮原俊人選手、3位はスイフトスポーツの浜屋雅一選手、4位はGR86の瀬井翼選手、5位はGRヤリスの海老名守選手、6位はアルトRSの田川強選手。
JAFオートテスト・ドリフト振興活性化作業部会の座長であり、大会の競技長を務めた小西俊嗣氏。参加者や関係者・クラブ員への謝辞とともに、今後の活性化を祈念して閉会となった。

参加者VOICE

■余吾泰衡選手/GRヤリス[GXPA16]

4月に人生初の愛車を入手して以来、オートテストやジムカーナに参加する余吾選手。ドリフト走行は初体験だったものの、サイドブレーキレバーを駆使して、見事な車庫入れを決めて優勝をさらった。「どんな動きをするのかわかりませんでしたが、ウェット路面の広い場所ということで、いろいろな走らせ方を試すことができました」とは余吾選手。

■加苅香代選手/180SX[RPS13]

今回の参加車両の中で、最も“ドリ車”に近い見た目だった180SX。オーナーの加苅選手は、実はミニサーキット走行やジムカーナをメインの活動としているそうで、「少し挙動が乱れたときに操作がドタバタしちゃうことが多かったので、ドリフトできる機会で基本操作を学ぶために参加しました。半日でしたが5,000円はお得だと思いますよ」と語る。

■林原悠子選手/アクセラスポーツ[BM5FS]

6速MT車で参加の林原選手。「走るイベントは観たことも出たこともなかったので、たまたまネットでこの大会を知って出ようと思いました。もともとドライブとMT車が好きでしたし、ドリフトも一生に一回は挑戦してみたかったんです。でも今回は全然できなかったので、またイベントがあったら是非参加したいです」と大いに楽しんでくれたご様子。

■武田伸治選手/シルフィ[TB17]

「ヘルメットもグローブも持ってなくてコースで借りました」と語る武田選手は、全日本ロードレースを始め、スーパーフォーミュラやスーパーGTでの写真撮影を趣味とする御仁。「走ることは好きで、二輪では岡山国際で走っています。四輪ではあまり走った経験がなくて、今回は二輪との感覚の違いに驚きました。とても楽しかったです」と笑顔。

フォト/小竹 充[Mitsuru KOTAKE]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]  レポート/JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

ページ
トップへ