3月30日、ついにFIAフォーミュラE世界選手権が日本初上陸! 東京・有明に約2万人の観客を集め、EVフォーミュラカーによる日本初の公道レースが無事閉幕

レポート レース

2024年4月8日

東京都江東区にある東京ビッグサイトを中心とした一部公道区間を閉鎖したエリアに、日本初開催となるFIAフォーミュラE世界選手権がついに上陸した。決勝が行われる3月30日には岸田文雄内閣総理大臣も訪れ、駆けつけた多くの観客と共に世紀の瞬間を見守った。

日産フォーミュラEチームのオリバー・ローランド選手がポールからスタートした決勝。マキシミリアン・ギュンター選手が優勝を飾り、ローランド選手は2位表彰台を獲得した。

 FIAフォーミュラ1世界選手権(F1)とFIA世界耐久選手権(WEC)、FIA世界ラリー選手権(WRC)に続く4つ目のFIA世界選手権として、東京・有明を舞台に、待ちに待ったFIAフォーミュラE世界選手権が、いよいよ日本で初めて開催されることになった。

 このフォーミュラE東京大会は、3月30日の土曜日に予選と決勝レースが行われるフォーマットで、レースウィークは金曜からスタートした。しかし、この金曜は午前中が暴風雨に見舞われてタイムスケジュールが変更。午後には陽が差したものの、夕方のフリープラクティス1(FP1)は一部ウェット路面での走行になった。しかし、本番となる土曜は晴れ予報ということで、迎えた土曜のFP2と予選、決勝は晴天かつドライ路面に恵まれた。

「日本初の公道レース」というと、JAF公認のカート競技として2020年9月に島根県江津市で行われた「ねっとの窓口 A1市街地グランプリGOTSU 2020」となるが、このたびフォーミュラEが日本に初上陸したことは、公道レースのFIA世界選手権、電気自動車による大規模な公道レースが日本で初めて行われる機会となっている。

 この大会は、舞台となった東京都が掲げる「2050年にCO2排出実質ゼロに貢献する”ゼロエミッション東京”」を実現するため、ゼロエミッション・ビークル(ZEV)を普及させる起爆剤となることも期待されている。東京都はこれまでに「TOKYO ZEV ACTION」と称してあらゆるZEV普及イベントを展開しており、それらのプロモーション活動も奏功して、モータースポーツ業界以外においても事前から多くの注目を浴びていた。

 それは海外においても同様の期待が高まっており、四輪の世界選手権を統轄するFIA(国際自動車連盟)からは、フォーミュラE東京開催に合わせて、ロバート・リード会長代行(FIA Deputy President For Sport)とナタリー・ロビンCEO(FIA CEO)らが来日。今大会では、他の世界選手権日本ラウンドとは異なり、モータースポーツだけではなく、日本の交通環境に係る関係者ともあらゆる会合を行い、最新情報の共有を行っていた。

 その一例として、3月28日(木)には、東京大学・弥生講堂一条ホールでは「FIA Sustainable Innovation Series Transport's Net-Zero Transition(FIAサスティナブル・イノベーション・シリーズ「交通機関のネットゼロ移行」)」というイベントが開催された。

 このイベントは、FIAとフォーミュラEオペレーションズ(FEO)、JAFが協力して、東京で初開催となるフォーミュラEの機会に合わせて行われたフォーラムで、ビジネスや政府、学術、モータースポーツ各界から新時代を創るリーダーを集め、将来のモビリティの変革とモータースポーツの役割についての洞察をシェアする機会となった。

 FIAからはロビンCEO、FEOからはジェフ・ドッズCEOが参加した。市街地レースという環境でゼロカーボンテクノロジーをもたらす活動を通じて、ポジティブな変革をもたらす支援策が披露された。また、FEOのジュリア・パレ氏をプレゼンターとしたパネルディスカッションでは、日産フォーミュラEチームのトマソ・ヴォルペ氏やアンドレッティフォーミュラEチームのロジャー・グリフィス氏、フォーミュラEのロジスティクスを担当するDHLのレオポルド・マテュー氏らが出席。モータースポーツが持つ持続可能な技術開発を加速するポテンシャルが、技術移転を高める可能性についての意見交換が行われた。

 また、FIAとFEOの協業により、今シーズンのフォーミュラEでは、女性のモータースポーツ進出を支援する試み「FIA Girls on Track(FIA ガールズ・オン・トラック)」のミート&グリートが毎戦開催されている。この東京大会でも3月29日(金)にイベントが開催され、株式会社トムスの全面協力により「シティサーキット東京ベイ」における現役女性レーシングドライバーたちのキャリアトークやシミュレーター体験などが行われた。

 FIAガールズ・オン・トラック東京大会の参加者は、午後には「ゆりかもめ」を利用してフォーミュラE会場に移動し、ファンビレッジ内にあるブースや、チームパドックにおいて、フォーミュラEチームの女性クルーによるキャリアトークを始め、スタンドでのシェイクダウンやFP1の観戦体験、日程の最後にはピットウォークにも参加することができた。

 このイベントと平行して同日には、FIAと、日本のASNであるJAFが招聘する専門部会委員との交流も図られた。会場ではJAFマニュファクチャラーズ部会とFIAテクニカルデリゲート委員との質疑応答の機会が設けられ、パブロ・マルティノ氏(FIA Head of Formula E Championship)によるシリーズの概要解説のほか、ローレン・アルノー氏(FIA Technical Delegate)やビンセント・ガイヤルド氏(FIA Technical Manager)らによるフォーミュラE車両の現状と今後の方向性などの意見交換が行われた。

 午後からは、リード会長代行とナタリーCEOに加えて、マレク・ナワレッキ氏(FIA Director of Circuit Sport)とルーク・スキッパー氏(FIA Director of Communications & Public Affairs)を迎えた「FIA/JAF・JMC懇談会」が開催。こちらでは、リード会長代行とナタリーCEO、そして松村基宏JAFマニュファクチャラーズ部会長がMCとなり、FIAが今後実施する組織改革の概要と趣旨や意図、各ASNに与える影響などの最新情報がもたらされ、JAFマニュファクチャラーズ部会委員やJMCメンバーとの積極的な意見交換がなされた。

 迎えた3月30日(土)は晴天に恵まれ、午前8時にはFP2、10時20分にはグループ予選と予選デュエルスが行われ、日産フォーミュラEチームのオリバー・ローランド選手がポールポジションを獲得して、15時4分から始まる第5戦の決勝レース開始を待った。

 ピットレーンは14時33分にクローズされ、グリッド上におけるオープニングセレモニーが行われた。この頃にはギャラリースタンドが満席状態になるほどの観客が訪れ、スタートゲートの前には、東京都の小池百合子知事やJAF坂口正芳会長のほか、FIAのリード会長代行やナタリーCEO、FEOのドッズCEO、そしてFEOのファウンダーであるアレハンドロ・アガグ氏やアルベルト・ロンゴ氏が整列した。

 そして、サプライズとして岸田文雄内閣総理大臣の訪問があった。警備の都合により公用車がコースを逆走する形で入場してホームストレートに到着。下車した岸田首相は、スタンドの観客からのどよめきと共に迎えられ、そのまま整列してセレモニーが始まった。

 シンガーソングライターの松本英子さんが国歌独唱を務めた後に、岸田首相がギャラリースタンドに向けて、以下のように挨拶した。「今日はフォーミュラE東京大会、素晴らしい天気のもと、開催されますことを心よりお喜びを申し上げます。二酸化炭素が出ない、エンジン音が出ない。だからこそ、フォーミュラEだからこそ、東京での開催が実現をしました。日本で初めての、公道での国際レース。今日は東京の街を、未来がそして夢が、猛スピードで駆け抜けます。国も東京都も、この環境に優しいモーターレースをしっかりと盛り上げて参ります。今日は皆さん、この未来の夢を十二分に楽しみましょう」。

 続いて小池都知事が挨拶。東京都はZEV普及を「TOKYO ZEV ACTION~新時代のアクセルをふもう~」というテーマで展開し、第3弾イベントとして「E-Tokyo Festival 2024」を同日開催しており、岸田首相来場への謝辞と共に、カーボンニュートラル推進への意気込みを語った。セレモニーが終了すると、一行はグリッドへ向かい、日産フォーミュラEチームのヴォルペ氏らとの交流の後に、場所を変えてスタート風景などの視察を行った。

 セレモニーにはスポーツ庁の室伏広治長官も訪れ、リード会長代行やナタリーCEO、FEOのドッズCEOやアガグ氏、ロンゴ氏らと交流を深めている。また、同じく公道を舞台とした世界選手権であるWRCラリージャパン開催にも尽力した、自由民主党モータースポーツ振興議員連盟の古屋圭司会長や三原じゅん子幹事長、山本左近議員らも同席した。

 東京ビッグサイトの東展示棟には、フォーミュラEの公式エンターテインメントコンテンツである「ファンビレッジ(FAN VILLEGE)」が開設され、eモータースポーツや反応速度測定ゲーム、タイヤ交換チャレンジなどのモータースポーツにまつわる体験型アミューズメントが用意された。その一角にはJAFブースが出展され、KYOJO CUPに参加する”おぎねぇ”選手こと荻原なお子氏がMCを務めるスロットカー体験などで盛り上がった。

 15時03分の決勝レースが始まる頃には、ストレート脇のグランドスタンドを始め、1コーナーから9コーナー周辺や最終コーナーに設けられたスタンドは満席状態となり、無料エリアであるファンビレッジ内の大型モニター前や、E-Tokyo Festivalのパブリックビューイングにも大勢の観客が集結した。決勝では、日産フォーミュラEチームのローランド選手が終盤まで白熱した上位争いを展開し、マシンが挙動を示すたびに観客からは歓声が上がっていたことから、訪れた観客は一体感のあるライブ観戦体験ができていたようだ。

 33周のレースは、マセラティMSGチームのマキシミリアン・ギュンター選手が優勝した。日産フォーミュラEチームのローランド選手は惜しくも2位に終わり、3位には、昨年のチャンピオンであるアンドレッティ・フォーミュラEチームのジェイク・デニス選手が入った。

 東6ホールに特設されたステージでは、駆けつけた大勢の観客と、FIAリード会長代行やナタリーCEOらが見守る中で表彰式典が行われた。各賞典のプレゼンターは日本人が務め、優勝チームであるマセラティMSGレーシングのホセ・マリア・アスナール・ボテラ氏には、FIAガールズ・オン・トラック参加者から選出された西村京夏さんがトロフィーを贈呈。3位のデニス選手にはABBジャパンの中島秀一郎代表、2位のローランド選手にはJAF坂口会長、そして優勝したギュンター選手には小池都知事がトロフィーを贈呈した。

 フォーミュラE東京大会は、国際格式競技会としてのオーガナイザーはJAF公認クラブ「ビクトリーサークルクラブ(VICIC)」が務めた。大会のレース運営については、VICICメンバーの他に国際格式レースの経験が豊富な”キーマーシャル”が選ばれ、今大会のFIAレースディレクターであるスコット・エルキンス氏の下で役務にあたっている。

 日本側では、組織委員長をVICIC今宮眞会長が務め、競技長は朝倉敬一氏、事務局長は藤井穂高氏が担当。最終的に20箇所にまで増えたポストに配備されるトラックマーシャルやフラッグマーシャル、インターベンションマーシャル、そして競技車両の通過を笛で知らせるピットレーンマーシャルなどの、多くの人員が必要となる役務については、JMRC関東レース部会のウェブサイトから一般公募が行われ、主に東日本などで活躍する各サーキットのコースマーシャルや競技役員経験者が集まって今大会を支えることになった。

 FP1では、ウェット路面でマシンの交錯があり赤旗が提示されたが、ドライ路面となった決勝レースでは、単独クラッシュによるローカルイエローや、デブリ飛散によるオイルフラッグ(デブリフラッグ)提示、デブリ除去のためのセーフティカーの導入はあったものの、重大インシデントにつながるトラブルは起きず、無事フィニッシュを迎えている。

また4月1日(月)には東京都港区のJAF本部において、FIAのリード会長代行とスキッパー氏を迎えた、JAFモータースポーツ専門部会の部会長らとの意見交換会も実施された。

 例年とは異なり、3月下旬から4月上旬にかけて二つの世界選手権が上陸することになった2024年。初開催のフォーミュラEは成功裏に幕を閉じ、この週末にはF1日本グランプリが鈴鹿サーキットで開催される。FIA世界選手権の日本開催は、モータースポーツ行政のあらゆる領域に対して世界基準の最新事情がもたらされる絶好の機会でもある。これから本格的な開幕を迎える国内モータースポーツへの好影響を期待したい。

PHOTO/石原康[Yasushi ISHIHARA]、遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、柴田直行[Naoyuki SHIBATA]、成田颯一[Souichi NARITA]、JAF、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

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