フォーミュラEが提供する「FIAガールズ・オン・トラック」ミート&グリートが東京E-Prixでも開催! シティサーキット東京ベイでは、サプライズゲストの登場に参加者騒然!!

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2024年4月8日

モータースポーツにおける女性のさらなる活躍を支援する「FIAガールズ・オン・トラック」活動。その一環として、今年はフォーミュラEが全ての大会で開催しているミート&グリートイベントが東京E-Prix会場でも開催された。ここではその詳細をお届けする。

FORMULA E FIA GIRLS ON TRACK TOKYO
開催日:2024年3月29日(金)
開催地:シティサーキット東京ベイ、東京ビッグサイト(東京都江東区)
主催:Formula E Operations、株式会社トムス(シティサーキット東京ベイ)

 FIAフォーミュラE世界選手権・東京E-Prixの開幕を翌日に控えた3月29日、東京都江東区にある「シティサーキット東京ベイ」と、フォーミュラE東京大会が行われる東京ビッグサイトの一部で、「フォーミュラE FIA ガールズ・オン・トラック東京」が開催された。

 この「FIAガールズ・オン・トラック」は、モータースポーツにおける女性のさらなる活躍を支援する活動として知られているが、2009年に創設された「FIAウィメン・イン・モータースポーツ委員会」は、ドライバーだけではなく、モータースポーツに関わる業務に対して女性の関心を高めることを目的としており、2014年には日本にも「JAFウィメン・イン・モータースポーツ作業部会」が立ち上がり、各国のASNで支援活動が行われている。

 FIAガールズ・オン・トラックでは、これまでドライバー育成の「カーティングチャレンジ」や「ライジングスターズ」プロジェクトも実施されており、FDA育成ドライバーへの登竜門でもあったライジングスターズ・プロジェクトでは、日本の松井沙麗選手や高橋佳音選手もセレクションに参加して、彼女たちの存在感を欧州に示す機会となっていた。

 フォーミュラEでは、大会に帯同する形で「フォーミュラE FIAガールズ・オン・トラック」イベントが行われている。昨年は英国をはじめ5大会で実施されたが、今年は全大会で開催されることになり、フォーミュラEが初上陸した日本でもイベントが開催された。

 東京大会でのミート&グリートは「モータースポーツの世界で女性が活躍することが、どのような体験かを知ってもらう」ことを目的としており、参加対象は12~20代までの女性。オフサイトプログラムとして、シティサーキット東京ベイを舞台に、日本で活躍する女性ドライバーとのキャリアトークセッションやシミュレーター体験を実施し、オンサイトの体験プログラムとしては、東京E-Prixが行われる東京ビッグサイトにおける、チームスタッフとの交流をはじめ、ピットウォークやレース観戦などのプログラムが用意された。

イベントが開催された3月29日は、午前中に強風を伴う雨模様に見舞われたが、午後には晴天に恵まれ、競技会場での午後のプログラムには絶好のコンディションとなった。

午前中はシティサーキット東京ベイにて現役ドライバーたちと交流

 株式会社トムスが運営するシティサーキット東京ベイで行われた午前中のセッションでは、日本で活躍する女性ドライバーを代表して、翁長実希選手とバートンハナ選手、織戸茉彩選手らがゲストとして登場し、女性視点でのモータースポーツへの想いが語られた。MCを務めたのはモータースポーツイベントで馴染み深い女性MCの笠原美香氏だ。

 モータースポーツに関わるために、これまであらゆる試行錯誤を重ねてきた彼女たち。それだけに今回の参加者の多さに驚いた様子で、「女性が多くてむしろ緊張してしまう」とか、「今日集まった人たちがどんなキッカケでモータースポーツに興味を持ったか知りたい」などと語っていた。それは彼女たち当事者であっても、モータースポーツに興味・関心がある女性が増えてきていることを改めて実感させられる光景だったということだろう。

 キャリアトーク前半では、女性ドライバーだからこそ感じる”ハードルの高さ”が語られた。バートンハナ選手は北米におけるモータースポーツ参戦のハードルの高さから、日本に活動拠点を移し、現在KYOJO CUPを中心に日本でモータースポーツ活動をしていることを語った。また、織戸茉彩選手は父が織戸学選手であることもあり、「カートなどを経験せず、ここ数年でモータースポーツ活動を始めたばかりなのに、自分に速さがあると思われてしまう」などと、レジェンドドライバーを父に持つからこその苦悩などを語っていた。

 モータースポーツ界にはあらゆる仕事や役割が存在し、むしろドライバーより多く、すでに多くの女性が業界内で活躍している。3名の選手は「モータースポーツに関わりたいなら、その気持ちを表に出すことが大切だ」と語り、「今回のようなイベントに足を運び、自身がやりたいことを声にすることで、何かに繋がるキッカケになるはず」とも語る。

 モータースポーツは、競技役員をはじめ、チーム関係者や大会運営事務局、スポンサーなど様々な立場の方々がいて成立しているスポーツでもある。キャリアトークの中では「モータースポーツの良さは人と人のつながりを感じられること」とも語られており、実体験を伴う「まずは誰かに、何かに繋がることが重要」という意見はとても納得がいくものだ。

 そして、トークセッション後半ではスペシャルゲストとして、FIAフォーミュラ1世界選手権(F1)にレギュラードライバーとして参戦する角田裕毅選手が登場した。翌週に鈴鹿サーキットでのF1日本グランプリを控え、事前に「超大物ゲストも参加予定」との触れ込みはあったものの、角田選手のサプライズ登場には驚き震えてしまう参加者もいた。

 角田選手は、女性ドライバーの活躍について聞かれると「最近はF1アカデミー(F1グランプリのサポートレース)など、女性ドライバーの活躍の場が増えてきた。女性ドライバーはカッコイイと思うし、F1に乗るドライバーが登場するなど、もっと女性ドライバーの活躍の場が増えたらいいなと思う」とコメントしていた。

 また、ドライバーに限らず、女性がもっとモータースポーツの場で活躍することができれば、モータースポーツはより良いモノになるとも語っていた。「女性は拡散力があるので、女性がよりモータースポーツに関わることができれば、更に良いモノになると思う。今の日本では女性にとってモータースポーツは身近なものではないと感じるから、女性にも興味を持ってもらえるようになれば嬉しい」とも語っていた。

 角田選手に直接質問できる機会もあり、12歳の参加者からの「今、しておくべきことは何か?」というライジングスターズ経験者らしい実感のこもった質問に対しては、第一声に「言い訳をしないこと」と返していた。「モータースポーツは言い訳をしやすいけど、クルマのせいにしないこと。思っていても言わないようにする。モノのせいにしない習慣をつけておくべき。これはモータースポーツ以外にもきっと生きるはず」と付け加え、世界最高峰を戦う人物の器量の大きさを実感させられた。

 午前のオフサイトプログラムの最後には、東京E-Prixのコースを模したシミュレーター体験が用意された。最初に角田選手がデモ走行を披露。F1ドライバーのドライビングを間近で見られる滅多にないチャンスに多くの参加者はその挙動にクギ付け状態に。その後は参加者が翁長選手や織戸選手らのレクチャーを受けながらシミュレーターを体験した。

本プログラムを取り仕切るのはコマーシャルオペレーション担当のイモージェン・ハーパー氏。女性の参加でモータースポーツに変革を起こすことに期待を寄せているという。
翁長実希選手とバートンハナ選手、織戸茉彩選手によるトークセッションの後半に、スペシャルゲストとして角田裕毅選手が登場。あまりの大物サプライズに場内は騒然!
角田選手へのQ&Aでは、ドライバーとして身を立てるための心得が伝授される一幕も。その後は東京E-Prixのコースを模したシミュレーターによるデモ走行を披露してくれた。
トークセッションの後には、翁長選手や織戸選手がサポート役を務めた、参加者によるシミュレーター体験やEVカートの体験試乗が行われ、午前のプログラムが終了となった。
サプライズゲストの角田裕毅選手と、翁長実希選手、バートンハナ選手、織戸茉彩選手。

フォーミュラEの会場では、世界で活躍する多くのスタッフと交流

 午後からは、いよいよオンサイトでの体験プログラムがスタート。実は、この日は午前中に大雨に見舞われてしまい、シティサーキット東京ベイで予定されていた屋外でのカート乗車体験などが中止されていた。しかし、お昼にはその雨もあがり、これから天気も回復する予報であったため、絶好のタイミングで東京ビッグサイトへ向かうことになった。

「ゆりかもめ」で東京ビッグサイト駅に移動した参加者一行は、いきなりシェイクダウン走行の観戦を経験し、初上陸したフォーミュラEマシンの走りにいち早く触れることができた。続いて一行は、東展示棟にあるフォーミュラE「ファンビレッジ」内に設けられたFIAガールズ・オン・トラックブースへ移動。ここではチームの女性スタッフ4名によるキャリアトークが行われ、どのような経緯で現職に就いたのか、仕事のやりがいや今後の目標など、モータースポーツの現場に関わるためのあらゆるヒントが共有されていた。

 そして、来日したFIAのナタリー・ロビンCEOも駆けつけて、参加者の前でFIAガールズ・オン・トラックの意義やモータースポーツにおける女性活躍の可能性を語ってくれた。

 その後は、いよいよピットに移動して、チームの要職に就く女性スタッフによるミニ・ワークショップが行われた。これは、マセラティMSGレーシングのエリザベス・ブルックス氏、そしてジャガーTCSレーシングのサラ・モロー氏の協力により行われ、複数の班に分かれて、それぞれのチームの成り立ちや自身の経歴などが語られた。

 この交流はフリープラクティス1を直前に控えた状況でもかなりの時間が割かれ、かつ「聞きたいことは何でも聞いてほしい」という懐の深いスタンスで臨んでくれていた。フォーミュラEがFIAガールズ・オン・トラック活動をいかに重要視しているかが伺えた。

 プログラムはまだまだ続く。続いて一行は16時30分からのFP1をスタンドで観戦。この頃には参加者の目つきも変わり、マシンを見つめる表情も真剣なものとなっていた。

 実は、本来なら15時からピットウォークを体験できることになっていたが、午前中の雨の影響などにより延期されていた。しかし、FP1のセッション終了後には、待ち時間はあったものの特別にピットレーンが開放されることになり、夕闇迫る会場で、参加者たちは決勝レース前日で整備が進むマシンの様子を間近に見学することができた。

 ファンビレッジのFIAガールズ・オン・トラックブースでは、参加者にオリジナルグッズのプレゼントや、翌日の決勝で使える専用クレデンシャルの配布なども行われて再会を誓うことになったが、その決勝日には、参加者たちにとってさらなるサプライズがあった。

 東京E-Prix決勝レースの表彰式では、参加者から選ばれた4名が、表彰台に登る上位3名のドライバーのアテンド係や、表彰式での賞典プレゼンターを務めることになったのだ。

 賞典プレゼンターには、現役自動車部員でもある西村京夏さんが選出され、表彰式では西村さんが、優勝チームであるマセラティMSGレーシングのホセ・マリア・アスナール・ボテラ氏にトロフィーを贈呈。フォーミュラEがシーズン10において、FIAガールズ・オン・トラック活動を強く推進していることを示す象徴的な場面となっていた。

シティサーキット東京ベイから「ゆりかもめ」で東京ビッグサイトへ移動した参加者一行。そのままグランドスタンドへ向かい、シェイクダウン走行を観戦した。
グランドスタンドでシェイクダウン走行を観戦。雨上がりで一部ウェットが残る路面だったが、フォーミュラEマシンと東京のファーストコンタクトを間近にすることができた。
続いて「ファンビレッジ」に設けられたFIAガールズ・オン・トラックブースに移動して、チームスタッフとの交流が始まる。彼女たちの現職に就いた経緯などが披露された。
ブースにはFIAのロバート・リード会長代行とナタリー・ロビンCEOらが視察に訪れ、ロビンCEOからは、参加者にFIAガールズ・オン・トラックに寄せる思いなどが共有された。
ピット裏のパドックでは、各チームの要職に就くスタッフによるミニ・ワークショップを体験。マセラティMSGレーシングからはエリザベス・ブルッグ氏が対応してくれた。
複数の班に分かれて行われたチーム関係者とのミニ・ワークショップ。ジャガーTCSレーシングでは、コマーシャル・マネージャーを務めるサラ・モロー氏が担当してくれていた。
そして参加者はグランドスタンドに戻って、16時30分からのフリープラクティス1の走行を観戦。この頃には、ホームストレートを除くコースの大部分がドライアップしていた。
15時から予定されていたピットウォークは天候などの影響で延期されていたが、FP1終了後に仕切り直しでピットウォークが用意され、参加者はマシンを間近で見ることができた。
参加者に配布されたオリジナルグッズ。ウォーターボトルやUSBハーネスなど、フォーミュラEのファンビレッジを快適に楽しめるアイテムが含まれている点もポイントだ。

「フォーミュラE FIAガールズ・オン・トラック東京」参加者の声

会場で出会って友達になったという栗栖優夏さん(左写真左)と甘利ツェリン杏萌さん(左写真右)。栗栖さんはSNSで偶然このイベントを見つけて参加したそうで、甘利さんはバートンハナ選手のSNSをフォローしていて、このイベントを知って申し込んだという。
栗栖さんはもともとクルマ好きで、スーパーフォーミュラやスーパーGT、スーパー耐久をチェックしているレース好きでもあるが、周囲に理解者がおらず、この機会に共通の話題で盛り上がれる仲間探しのために訪れたそうだ。一方の甘利さんは、海外でのこの活動を以前から知っていて、今回、日本でも開催されると聞いてすぐに申し込んでいる。
栗栖さんは「やっぱり角田選手に会えたのが最高でした。(甘利さんと)SNSでも繋がれたので目的達成できましたし(笑)。モータースポーツや自動車の世界で働きたいと思っています。どういう仕事があるのかはまだ理解していませんが、私は物理しかできなくて(笑)、それが役立ちそうなので、この世界でやってみたいな気持ちがあります」と語る。
甘利さんは「(角田選手のサプライズに)もう、言葉がないです。朝8時45分集合で今は夕方ですが、一日がアッという間で、楽しすぎて、実感がないです(笑)。モータースポーツを知ったのは最近ですが、観ていてけっこう楽しいです。これまで将来を考えたことはなかったですが、自分が楽しいと思えることをやって生活してきたいです。理系ではないのでテクニカルな部分はダメですが、先ほどチームスタッフの方が話していたコマーシャルの業界やマスコミなどの仕事もいいかなと思えました。今回、フォーミュラEの担当者の人とも話せたので、イベント運営側の仕事にも興味が湧きました」と振り返った。
父親の影響でカートを好きになり、これまで秋ヶ瀬や大井松田カートランドでカートを走らせてきた尾藤柚奈さん。現在、四輪への挑戦も始めていて、モビリティリゾートもてぎや袖ケ浦フォレストレースウェイなどで耐久レースにも参戦しているという。
尾藤さんは「父から今回のイベントを教えてもらい、フォーミュラEというクルマを見たことがなかったので、参加しようと思いました。四輪でハコ車に乗るようになって、陰で支える仕事にも興味が湧いてきたんです。それでエンジニアを目指そうと思うようになり、そういう大学を選びました。センサーの構造や制御を学べる大学なので、ブレーキなどの制御を学んで、事故を少なくできるようなクルマ作りをしていきたいとも思っています。
自分の最終目標は、トップドライバーになって、さらに、より安全なクルマ作りができるような人材になることです。センサーを取り扱う企業への就職といった道もありますが、自分としては運転や競うことが好きなので、好きな方向で進んでいきたいですね。
目標には道半ばにも来ていませんが、まずはハコ車のレースにデビューさせてもらって、結果をしっかり残しつつ、その結果について自分でデータ解析をしてきたいです。
フォーミュラEのように海外のチームだと、英語を話せないと馴染めませんよね。なので、自分をさらに成長させるために外国語を学ぼうという意欲を得られました。そして、自分のアイデンティティ確立のためにも、専門的なことをもっとしっかり勉強しなきゃいけないなとも思うようになりました」と、将来につながる多くの気付きを得られたようだ。
成功裏に終わった東京E-Prixの表彰式では、東京都の小池百合子知事とJAF坂口正芳会長、ABBジャパンの中島秀一郎代表と並んで、西村京夏さんがプレゼンターに選出された。
表彰式では入賞者のアテンド役も担当することになり、東京大会のFIAガールズ・オン・トラック参加者は、2日間に渡ってフォーミュラEを大いに堪能することができた。

 ちなみにフォーミュラEでは、チーム関係者だけではなく、運営側でも多くの女性が活躍しており、シリーズのイベント運営とレース運営は二人の女性が重責を担っている。

 フォーミュラEのイベント統括者であるジェンマ・ロウラ氏は、各国のローカルプロモーターとイベント運営の調整を行っている。初開催の地であり、かつ当日には多くの要人を迎えることになった東京大会でも、日本側のプロジェクトマネージャー津山覚氏と共に、根気強く各所との交渉を重ねて、今大会を成功に導いている。

 また、スポーティングディレクターはクラウディア・デニ氏が務めており、レース中にはFIAとレースディレクターを後方からアシストしつつ、大会ごとのレース運営、シリーズ全体のスポーティングを統括している。いかなる事象にも毅然とした態度で臨んでいて、レースコントロールから冷静な指示を送り、公平かつ安全なレースの構築に務めている。

 シティサーキット東京ベイでは日本を代表するドライバーと交流し、フォーミュラEの現場ではチームで活躍する女性クルーたちと触れ合う機会が盛り沢山に用意された今回のイベント。参加者たちは、世界選手権の現場で活躍する女性たちの生の声を聞くことで、モータースポーツにおける関わり方を、より具体的に感じ取ることができたに違いない。

 フォーミュラEが提供したFIAガールズ・オン・トラックの活動を通して、日本のモータースポーツでも様々な場面で活躍する女性が増えて欲しい、改めてそう思わせると同時に、そのような未来を比較的近くに実現できる雰囲気を感じられるイベントであった。

フォト/石原康[Yasushi ISHIHARA]、遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、成田颯一[Souichi NARITA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]、レポート/西川昇吾[Shougo NISHIKAWA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

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