富士で開催のFIA-F4開幕戦は、接戦を制した佐野雄城選手が初優勝

レポート レース

2024年5月9日

初夏の様相を呈した富士スピードウェイで、2024シーズンのFIA-F4選手権がスタートを切った。ゴールデンウィーク中の5月2~4日の開催であり、またスーパー GTとの併催ということもあって、大観衆に見守られる中で激戦が繰り広げられた。

2024年FIA-F4選手権 第1戦/第2戦
(2024 SUPER GT Round.2内)

開催日:2024年5月2~4日
開催地:富士スピードウェイ(静岡県小山町)
主催:富士スピードウェイ株式会社、FISCO-C、株式会社GTアソシエイション

 今年のFIA-F4は大改革の年を迎え、第2世代としてマシンを一新。シャシーは東レ・カーボンマジック社製のMCS4-24に、エンジンはトムスチューンのTMA43に改められたのだ。コクピット上部には頭部保護装置のHALOが備えられたうえに、剛性アップで安全面を大幅に強化。エンジンも従来の160PSから180PSに増強された。

 何より、この変化によって過去9年間に渡り積み重ねてきたデータやノウハウがリセットされ、すべてのチームが同じスタートラインに立つことになる。昨年のランキング上位陣の多くが揃って卒業を果たし、2日間にわたって行われた専有走行では、優勝経験を持つ継続参戦の野村勇斗選手が、すべてのセッションでコンディションを問わずトップとなり、ある意味、順当な結果になってはいたが、本戦では果たして。

多くの観客が訪れるなか、会場にはFIA-F4の第2世代マシンのシャシーを供給する東レ・カーボンマジック株式会社・代表取締役社長の奥明栄氏と、大会を運営する株式会社GTアソシエイション・代表取締役の坂東正明氏の姿も。

予選

 予選と決勝レース第1戦が行われた5月3日は、雲ひとつない好天に恵まれた。心地良い風は吹いているものの、そうでなければ暑く感じるほどだ。予選は計測20分、ベストタイムで最初のレースの、そしてセカンドベストタイムで次のレースのグリッドを決めるのは従来どおりながら、クラス区分には変更があった。

 従来のジェントルマンドライバーを対象とするインディペンデントカップは、“インディペンデントクラス”と改称。そしてそれ以外のドライバー、すなわち主に若手を対象とするのは“チャンピオンクラス”、というクラス区分となった。予選はそれぞれ分かれて競われ、また決勝もタイムの優劣に関わらず、別々のグリッドに並ぶことになる。なお、チャンピオンクラスだけでなく、インディペンデントクラスにも、今年からJAF地方選手権タイトルがかけられることにもなった。

 まずはチャンピオンクラスから予選が行われ、ベストタイムを記録したのは新原光太郎選手だった。「スリップストリームをうまく使えたのと、タイヤの美味しいところを合わせることができました。いい場所で最後まで走れましたが、後半はタイヤがタレてきて、セカンドベストは獲られてしまったのが悔しいですね。新型車両に変わったことで、全員がデータを持っていないため、エンジニアやメカニックがいろいろ考えてテストをやってくださりました。そこが大きなポイントだと感じます」と、第1戦ポールポジション(PP)獲得の要因を、そう分析した。

 そして、セカンドベストタイムではトップになり、第2戦のPPを獲得したのは森山冬星選手だ。「マシンのアジャストがようやく決まって、あとは僕だけだなと思っていたので、予選は集中しました。走り始めは調子悪かったですが、どんどん上がっていきましたね。チームも自分も自信がついてきたので、こういう結果になって良かったです。チームとしても、僕自身もひさびさとなる表彰台を確実に狙っていきます」と予選後に語っていた。

 新原選手と森山選手がフロントローを独占した一方で、野村選手は第1戦が3番手、第2戦は4番手と、セカンドローに控えた。「昨日の練習までは調子が良く、自信を持って挑みましたが、クルマのフィーリングが昨日とはまったく変わっていて、トップを獲れず悔しいです。ロングランもあまりできていないので、まずは落ち着いて決勝に挑もうと思います」と語っていた野村選手。セカンドローを分け合ったのは、2年目の佐野雄城選手だった。

 続いて行われたインディペンデントクラスの予選で「多少ミスはありましたがWポールを獲れていると思いました。最後に抜かれてしまい残念でした」と語るのはDRAGON選手。そして、独占を阻止したのは「今年こそチャンピオンを獲得します。65歳でチャンピオンって、かっこいいですよね?」と語る仲尾恵史選手で、いずれも優勝経験を持つチャンピオン候補。3番手は2レースとも帰り新参のIKARI選手で、4番手も2レースともKENTARO選手が独占した。

チャンピオンクラス第1戦PPは新原光太郎選手(YBS Verve 影山 MCS4)。第2戦のPPは森山冬星選手(HELM MOTORSPORTS F4)。
インディペンデントクラス第1戦PPはDRAGON選手(B-MAX TEAM DRAGON)。第2戦のPPはKENTARO選手(Baum Field F4)。

第1戦 決勝

 決勝レースは14周、もしくは30分での戦いとなる。第1戦チャンピオンクラスではフロントローのふたりがともに好スタートを切るも、新原選手が森山選手を抑えて1コーナーへ。その後方には野村選手、佐野選手の順で続く。5番手は予選7番手から上がってきた大宮賢人選手だ。

 1周目を終えた時点では、ストレートに長い列が続いていたが、その中でスリップストリームから抜け出し、3番手に上がってきたのが佐野選手だ。しかし、必死の抵抗を野村選手が見せたことから、その間にトップ2台が抜け出す格好に。激しい3番手争いはその後も続き、まずは3周目に洞地遼大選手が大宮選手をかわして4番手に上がり、4周目のストレートでは白崎稜選手が5番手になった。

 4周目のダンロップコーナーでアクションをかけた森山選手ながら、ここでの逆転は許されず。5周目のコカコーラコーナー進入でも仕掛けるが、その際にノーズが新原選手のリアストラクチャーと接触してしまい、姿勢を乱した新原選手はガードレールにヒット。無念のリタイアを喫してしまう。これで単独走行となった森山選手ではあるが、7周目のヘアピンでアクシデントが発生し、セーフティカー(SC)が導入される。

 SCランは11周目まで続き、リードを失った森山選手は、リスタートを完璧に決めてトップを譲らず1コーナーに飛び込んでいく。一方、その1コーナーで大宮選手がスピンを喫していた。

 しかし、森山選手の逃げ切りは許されず。先の接触に対し、ドライブスルーペナルティが課せられたからだ。これで佐野選手がトップに浮上し、野村選手、洞地選手の順となる。その後方のバトルはなおも続き、13周目のコカコーラコーナーでは、迫り来る清水啓伸選手のチャージを防ごうとした白崎選手が痛恨のオーバーラン。清水選手だけでなく卜部和久選手にも先行を許し、6番手に後退した。

 トップに立ってからは、まったく危なげない走りを見せて佐野選手が優勝。「初優勝です。すごくうれしいです。もともとドライ路面での練習が調子悪かったんです。予選ではいい方向に行けて、逆に(予選4番手でも)自分的には良かったですね。早い段階で野村選手をパスできて、その後も追いつかれず。間隔はほぼ一緒だったので、ペースも悪くありませんでした。バトルは1回しかなかったですが、それも良かったと思います。この調子で頑張ります」と、素直な印象を述べた。

「佐野選手に抜かれた後、抜き返す力がありませんでした。SCが離れた後も離されてしまう厳しいレースでした」と悔やむ野村選手が2位で、3位はチームメイトの洞地選手だった。

 インディペンデントクラスは「序盤から逃げようと思って、1周目は必死にプッシュした」のが功を奏し、PPスタートのDRAGON選手が盤石のレース運びを見せ、後続を寄せつけずに1勝を挙げた。ちなみにクラスの区分に関しては「すごく良かったと思いますよ。よく言われるのですが、僕に限らず邪魔しようなんて気は、誰にもまったくなくて。でも、なってしまうことって、どうしてもあるじゃないですか。それが、特に予選ではお互いのクラスで自分たちの勝負に専念できるようになりました。ただ、スタンディングスタートだから、僕らもスタートが良かったりすることもあるので、もう少しグリッドは開けてもいいかな」と貴重な意見を語ってくれた。

 2位は仲尾選手とIKARI選手が最後まで競い合ったが、冷静なガードが光った仲尾選手が先にゴールした。

第1戦チャンピオンクラス優勝は佐野雄城選手(TGR-DC RS F4)。
TGR-DC RS F4の片岡龍也氏と初優勝を喜ぶ佐野選手。
2位は野村勇斗選手(HFDP Racing Team)、3位は洞地遼大選手(HFDP Racing Team)。
第1戦チャンピオンクラス表彰の各選手。
第1戦インディペンデントクラス優勝はDRAGON選手。
2位は仲尾恵史選手(TCS AKILAND)、3位はIKARI選手(Bionic Jack Racing)。
第1戦インディペンデントクラス表彰の各選手。

第2戦 決勝

 第1戦終了までに、練習や予選を含めて一部の車両にエンジントラブルが発生。原因が明確にならず「ドライバーの安全を確保できない」という理由により、第1戦を終えた時点で数チームが不参加を表明した。翌日、グリッド改訂版が発表され、フロントローに並んだ森山選手、新原選手はそのままながら、佐野選手や野村選手らが抜けたグリッドは繰り上げられた。

 ややヒリヒリとした空気の中で切られたスタートでは、なんと新原選手がエンジンストール。これでPPの森山選手が難なくトップに立って、早くも後続を引き離しにかかった。清水選手がひとつ順位を上げて2番手につけ、5番手グリッドから佐藤樹選手がその背後に。4番手グリッドだった白崎選手は新原選手との接触こそ回避したが、下野璃央選手にも抜かれ、5番手に後退してしまう。

 一方、インディペンデントクラスでは、DRAGON選手も不参加を表明。仲尾選手のPPは変わらずも、IKARI選手が2番手に繰り上がる。このふたりのトップ争いからレースは開始となったが、2周目の1コーナーで接触があり、ともに大きく順位を落としてしまう。これにより、クラスのトップに立ったのがKENTARO選手だった。さらに中団にも1コーナーで接触があり、1台がストップ。第1戦に続き、またしてもSCが導入される。先導は4周目まで続いた。

 リスタート後の1コーナーは、まさに大渋滞。森山選手は清水選手のチャージを辛くもかわしたが、その直後には3ワイド状態になった下野選手と白崎選手が接触、回避できた佐藤選手が3番手に浮上する。

 その後、徐々に差を広げていった森山選手は最大1秒3のリードを築くも、終盤になって清水選手のペースが上回るように。しかし、「途中から清水選手のペースが上がったので、なんでだろうと思いながら走っていました。僕は精いっぱいラップ落とさず走っていたので」と後に語ったように、森山選手にはプレッシャーになっていなかったようだ。

 最後はコンマ7秒差にまで迫られるも、堂々と逃げ切って森山選手が初優勝。「スタートも決まったので、新原選手が失敗していなかったとしても、トップのまま1コーナーに行けたはずです。初優勝、最高ですね!  でも、みんな出て欲しかったですね。ちゃんとライバルがいて勝負、というのが理想でした。でも勝ちは勝ちですし、ポールも獲っていますから。ポジティブな面も多く、次の鈴鹿も自信があるので頑張ります」と森山選手。

「チームがいい車を作ってくれて、後半いいペースで走れたのに、最後に自分のミスで勝負に持っていけなかった」と悔しそうに語る清水選手が2位で、3位はチームメイトの佐藤選手。そして4位が新原選手。ストールでほぼ最後尾まで順位を落としながらも、第1戦のリタイアでタイヤを使い切っていなかったことも奏功し、見事な追い上げを果たしていた。

 インディペンデントクラスでは、KENTARO選手が終盤になって齋藤真紀雄選手にじわりじわりと追いつかれるも、辛くも逃げ切りに成功。初優勝を飾る。「F4は3年目です。昨日はスタートでエンストしてビリの方まで落ちてしまったので、なんとかスタートで出遅れないように、というのを心がけてやっていました。あとは練習の成果を出すしかないと。うまくいきました! ちょっとずつ後ろが近づいてきたのが分かったので、怖かったですが、なんとか逃げ切れて良かったです。めっちゃうれしいです!」とKENTARO選手。

第2戦チャンピオンクラス優勝は森山冬星選手(HELM MOTORSPORTS F4)。
HELM MOTORSPORTS F4のチーム代表らと優勝を喜ぶ森山選手。
2位は清水啓伸選手(Drago CORSE MCS4-24)、3位は佐藤樹選手( Drago CORSE MCS4-24)。
第2戦チャンピオンクラス表彰の各選手。
第2戦インディペンデントクラス優勝はKENTARO選手。
2位は齋藤真紀雄選手(CSマーケティングAKILAND)、3位は小谷素弘選手(TEAM 5ZIGEN F4)。
第2戦インディペンデントクラス表彰の各選手。

フォト/石原康、遠藤樹弥 レポート/はた☆なおゆき、JAFスポーツ編集部

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