WRC第5戦ポルトガルでの勝田貴元選手は序盤で総合トップに立つがミスで後退

レポート ラリー

2024年5月22日

2024年FIA世界ラリー選手権(WRC)第5戦「ラリー・ポルトガル」が5月9~12日、ポルトガル北部のマトジョニスを拠点に開催された。1973年のWRC設立以来、シリーズの一戦に組み込まれてきたクラシカルなグラベルラリーに、日本人ドライバーの勝田貴元選手がコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手と組んで、GR YARIS Rally1 HYBRIDに乗り込み参戦した。

2024年FIA世界ラリー選手権 第5戦
ラリー・ポルトガル

開催日:2024年5月9~12日
開催地:ポルトガル・マトジョニス周辺

5月9日・シェイクダウン、デイ1 / 10日・デイ2

 これまで勝田貴元選手は第1戦の「ラリー・モンテカルロ」以来、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)のマニュファクチャラー登録ドライバーとして参戦してきたが、今回のラリーにはフル参戦ドライバーのエルフィン・エバンス選手に加えて、車両をシェアしながら参戦しているカッレ・ロベンペラ選手とセバスチャン・オジエ選手、ふたりのWRCチャンピオン経験者もエントリーした。

 そのため、勝田貴元選手は2024シーズンでは初めてマニュファクチャラーランキングのポイント対象外となる立場で参戦することとなった。しかし、2022シーズンは表彰台争いに加わるなど、ポルトガルは勝田貴元選手にとっても得意なラリーで、「マニュファクチャラーのポイントを加算しない体制で、何が起きてもチームに対する影響が少ないことから、今回はラリー前からプッシュして挑む、というプランになっていました」とのことだった。

 WRCではテスト日数の上限が決められているほか、TGR-WRTとしてはポルトガルよりも次戦の「ラリー・イタリア・サルディニア」に対する課題が多かったことから、チームはポルトガルではなく、サルディニアで事前テストを実施した。勝田貴元選手によれば「チームとしてはポルトガルのデータを持っていたので、サルディニアでのテストを経て、ポルトガルに向けてアジャストするアプローチでしたが、フィーリングとしてはテストからすごく良くて、不安要素は多くなかったです」とテストは好結果だったようだ。

 事実、勝田貴元選手はポルトガルでもシェイクダウンから好調で、タイムこそ6番手にとどまったが、「ポルトガルでテストをしていないので、走ってみないとわからない部分がありましたが、タイム以上にフィーリングは良くて、この状態だったらしっかり攻め込める、という感じでした」と手応えを掴んでいた。

 その言葉どおり、勝田貴元選手は9日にスーパーSSとして行われたSS1でも4番手タイムをマークし、順調な仕上がりを披露。その勢いは10日のデイ2でも健在だった。「浮石の多いサンディな土曜日、日曜日に対して、金曜日がかなりラフなステージで、岩肌が多く出ていてタイヤにもかなりハードなステージが多かったことから、金曜日に良いポジションを持ち帰ることが重要で、最初からプッシュしていきました」と語るように、勝田選手はこの日のオープニングステージとなるSS2でベストタイムをマークした。

「クルマはかなりアンダーステアが強くて乗りづらかったんですけど、周りも苦戦していたようで、その中でうまくまとめられました」と振り返ったように、勝田貴元選手はSS3で4番手タイム、SS4とSS5で5番手タイムをマークし、総合トップでファーストループを消化した。

「午後のループはハードタイヤを装着していたんですけど、今回からタイヤが新しくなったことも影響したのか、すごく乗りづらくて、かなり苦戦する場面が多かったです」と語るものの、それでも勝田貴元選手はSS8で3番手タイムをマークするなど、安定した走りを披露した。セカンドループでは「タイムを詰め切るというより、クルマを痛めないようにマネジメントしていました」とのことで、総合トップはロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組に譲ったものの、4.7秒差の総合3番手でデイ2を終えた。

ラリー・ポルトガルと言えばジャンプ! 名物SS“ファフェ”に集まったギャラリーの前で大ジャンプを見せる勝田貴元選手とコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)。デイ2では一時トップに立つ活躍を見せるも、デイ3のワンミスでデイリタイア。“スーパーサンデー”でのポイント獲得にとどまった。
ポルトガルでは2024シーズンを戦うTGR-WRTの4クルーが勢揃いした。左からセバスチャン・オジエ選手、勝田貴元選手、エルフィン・エバンス選手、カッレ・ロバンペラ選手、ロバンペラ選手のコ・ドライバーのヨンネ・ハルットゥネン選手、エバンス選手のコ・ドライバーのスコット・マーティン選手、ジョンストン選手、オジエ選手のコ・ドライバーのヴァンサン・ランデ選手。

5月11日・デイ3 / 5月12日・デイ4

 総合3番手でデイ2を終えて「土曜日の出走順は悪くないので十分に戦えると思っていました」と、感じた勝田貴元選手。「金曜日に苦戦したこともあって、セッティングをガラッと変更しました。ステージのコンディションも違うので、ドライビングでアジャストしていたんですけど、全体的に見てクルマは走れていました」と、デイ3のオープニングステージとなるSS10で5番手タイムをマークした。

 SS11はスピンで約10秒のタイムロスを喫したが、それでも5番手タイムをもぎ取り、トップから15.7秒差の総合3番手につけていた。そのため、勝田貴元選手も「その次のSSが37kmのロングステージで、序盤からフィーリングも良かったのでプッシュして差を縮めたいと思っていました」と、SS12に臨んだのだが予想外のハプニングが発生した。

「高速セクションの複合コーナーでラインを外したことによって、外側にあった岩肌に右リアをぶつけてしまって。残り27kmだったのでなんとか走り切りたいと思っていたんですけど、アーム類に加えてブレーキを破損してしまったので、マシンを止めることにしました」と、勝田貴元選手は痛恨のデイリタイアとなったのである。

「オーバープッシュではなく、コントロール下に置いているような状態で走れていたんですけどね。小さなミスでリタイアしたので悔しい気持ちはあります」と、ミスを悔やむ勝田貴元選手。一方で、「今回は全てを出し切るつもりで序盤からプッシュしていたので、こういうこともあるだろうな、という覚悟もありました。そういった意味ではスウェーデンより前向きになることができました」と、率直な印象も語った。

 12日のデイ4は「“スーパーサンデー”もあるのでポイントを獲っていきたい」と、勝田貴元選手は気持ちを切り替えて再出走を果たしたのだが、「出走順がかなり前になったことと、ハイブリッドのトラブルが出ていましました」とのことで苦戦を強いられた。それでもSS19で6番手タイム、SS20からSS22は三連続で5番手タイムをマークし、総合31位で完走。最終SS22のパワーステージでの5番手タイムと、“スーパーサンデー”の総合5位で合計4ポイントを獲得した。

「今回はスピードだけを重視してプッシュしていたこともあり、自分のスピードを示すことはできたと思います」と手応えを語る勝田貴元選手。それと同時に「スピードを最終的に結果につなげられなかったので、そこが課題です。この経験を活かしながら、スピードを最後まで継続することを意識して改善していきたいと思います」と、課題についても分析した。

 さらに「ポルトガルとは違いますが、サルディ二アもある程度、自信を持って挑めるラリーですので、しっかりとスピードを発揮して、チームのポイント獲得を担いたいと思います」と、意気込みを語った、5月30日~6月2日に開催される第6戦「ラリー・イタリア・サルディニア」でも勝田貴元選手の動向に注目したい。

 なお、ポルトガルではオジエ/ヴァンサン・ランデ組がクロアチア・ラリーから二連勝。HYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAM(ヒョンデ)でともにi20 N Rally1 HYBRIDを駆るオイット・タナック/マルティン・ヤルヴェオヤ組とティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガが2位と3位で表彰台の両脇を占めた。

 ポイントランキングでのTGR-WRT勢は、総合6位に入ったエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組がドライバー/コ・ドライバーランキングの2番手を守り、マニュファクチャラーランキングではヒョンデと4ポイント差の2番手に後退した。

前戦クロアチア・ラリーでメモリアルな勝利を収めたオジエ選手と、相棒のランデ選手がポルトガルも制して二連勝。SS13でこのラリー4回目のベストタイムを獲得して総合トップに立つと、以後も3つのSSを制してその座を譲ることなくフィニッシュ、路面を問わない速さを見せつけた。
クロアチアに続き、TOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラム2期生の小暮ひかる選手(左)がコ・ドライバーのトピ・ルフティネン選手と、山本雄紀選手(右)はコ・ドライバーのマルコ・サルミネン選手とWRC2クラスに参戦。しかし山本選手はSS2で転倒、小暮選手はSS5でエンジントラブルによって、ラリー序盤で戦線離脱。GR Yaris Rally2を駆ってのグラベルラリー初戦は、ほろ苦い結果となった。
小暮選手と山本選手も参戦したWRC2では、最上位クラス経験者たちが次々と戦線離脱。37台中16台しか生き残れなかった、厳しいサバイバルラリーを駆け抜けてクラス初優勝を挙げたヤン・ソランス/ロドリゴ・サンフアン組(テオ・マーティン・モータースポーツ)が、GR Yaris Rally2にWRC初優勝をもたらした。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing、Red Bull Media House レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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