ベテランvsルーキーの構図で激化必至の日本ドリフト選手権が奥伊吹で開幕!

レポート ドリフト

2024年5月20日

2024年から四輪モータースポーツの「日本選手権」にドリフト競技が追加された。それに伴い、D1グランプリシリーズは「JAF日本ドリフト選手権」として新たなスタートを切ることとなった。

2024年日本ドリフト選手権
D1グランプリシリーズRd1/Rd2
奥伊吹大会

開催日:2024年5月10~12日
開催地:奥伊吹モーターパーク(岐阜県米原市)
主催:株式会社サンプロス

 日本ドリフト選手権の開幕ラウンドは、岐阜県米原市の奥伊吹モーターパークでの連戦。レイアウトは昨年とほぼ変わらないものの、今年のD1GPのルール改正で、ゾーン通過はそれまでのボディではなくタイヤが通過することとなり、より緻密なコントロールが問われるようになった。

 通常のシーズン開幕戦は新型マシンの投入ラッシュでもあるが、今年の目玉は昨年シリーズ2位の松山北斗選手(Team TOYO TIRES DRIFT 2)のトヨタ・GRスープラからトヨタ・GRカローラへの乗り換えだろう。逆に、昨シーズンランキング3位の中村直樹選手(TEAM VALINO × N-STYLE)は、トヨタ・GR86から2022年に使用したV8搭載の日産・シルビアを再投入。

 そして今年から参戦するドライバーには若手が多く、昨年のD1ライツシリーズのトップ3(米内寿斗選手、山中真生選手、田野結希選手)がステップアップを果たした。デビュー戦でどんな活躍を見せてくれるのか注目されるとともに、今後ベテランと若手の対決が激化していくことが予想される。

第1戦

単走部門

 出走は36台。GR86での参戦が3シーズン目で、マシンの完成度も高いTEAM TOYO TIRES DRIFTの藤野秀之選手&川畑真人選手が揃って敗退という波乱が巻き起こる。ほか8台のエントリーで最大勢力となったGR86では、村上満選手(Repair Create × Result Japan)が99点台で2位に食い込んだ。GRカローラの松山選手は8位。完成したばかりでほとんど走行していないにもかかわらず、そのポテンシャルの高さをアピールした。

 一方で、10年ぶりに参戦、しかも4ローターのマツダ・サバンナRX-3で練習走行から観客大注目のMike Whiddett選手(TOYO TIRES × RedBull TCP MAGIC)は、切れ角アップによるタイヤとボディの干渉が対策できず単走敗退。4名の外国人選手の中では、タイのDaychapon Toyingcharoen(ポン)選手(TEAM VERTEX NEXZTER D2D)が16位でギリギリ追走トーナメント進出を果たした。

 そんな中、中村選手が唯一の100点超えで単走優勝を果たす。昨年の最終戦でシリーズチャンピオンを逃した雪辱を晴らす勢いを見せつけた。2022年の奥伊吹ラウンドを連勝したときのシボレーのV8エンジン&スーパーチャージャーをLS3からLSXに変更し、その完成度は当時より格段にアップしている。

 当時頻発していたマイナートラブルはすべて対策され、スーパーチャージャーの過給圧も高められるようになった。またブースト0.7kg/cm2で1000馬力を超えるそうだ。ドリフトの要とも言えるナックルアームは、今や定番となっているワイズファブ製をさらに改良している。

第1戦 単走部門優勝は中村直樹選手(V8 VALINO N-STYLE SILVIA)。
「ゾーン1のアウトはそれほど攻めてなくても99点が出ていたし、最後はタイヤがズルズルでも98点、新品で走る本番は100点狙えるんじゃないですか?」と練習後にコメントしていた通り、本番では2位を1点以上突き放す100.16点を叩き出した。

追走部門

 ポン選手、松山選手、日比野哲也選手(SHIBATA RACING TEAM)を倒して決勝戦に進んだ中村選手の相手は、単走こそ15位のギリギリ通過だった齋藤太吾選手(FAT FIVE RACING)だ。齋藤選手はここ数年の影を潜めていた勢いを取り戻す迫力で村上選手、目桑宏次郎選手(TOP Team G-meister)、横井昌志選手(TEAM D-MAX RACING)を倒し、その姿は「王者復活!」とMCも連呼するほど。

 しかし、昨年はドリフトマスターズ・ヨーロッパ選手権に参戦して新たなテクニックを身につけた中村選手が、ここまでの対戦で高い追走点をマークしており、どちらが勝ってもおかしくない状況でもある。その結果は1本目後追いの齋藤選手がアドバンテージを取った。

 入れ替えた2本目のスタート直後、齋藤選手にややミスが出てそこを中村選手が追撃。プッシングが絡む難しい判断となったが、結果は中村選手の勝利。ふたりのチャンピオン経験者による見事な追走の応酬が見られなかったのは残念だったが、追走判定の難しさを理解する上で面白い1戦だったとも言える。

第1戦 追走部門優勝は中村選手(V8 VALINO N-STYLE SILVIA)。
奥伊吹ラウンドでの単走優勝&決勝優勝のパーフェクトウィンは2022年でも獲得していて、そのときもこのシルビアだった。当時は点火系のトラブルを抱えて6気筒走行での辛勝だったが、今回は中村選手も納得の圧倒的な勝利。練習日に発覚したエンジン冷却不足も追走までに対策されたようだ。
第1戦の優勝は中村選手、2位は齋藤選手、3位は横井昌志選手、4位は日比野哲也選手、5位は目桑宏次郎選手、6位は松山北斗選手、7位は上野高広選手、8位は森孝弘選手、9位は村上満選手、10位は加納広貴選手、11位は松井有紀夫選手、12位は山中真生選手、13位は蕎麦切広大選手、14位は畑中夢斗選手、15位は田中省己選手、16位はDaychapon Toyingcharoen選手。

大ベテランがルーキーの進撃を止める!

ベスト8をかけて戦う追走のハイライトは、通算170戦目となる超ベテラン上野高広選手と初参戦初追走の山中真生選手の対戦。同じ神奈川出身のふたりの勝負はまさにこれからのD1の流れを占う1戦だったが、そう簡単に下剋上とはならず、上野選手が勝利。

第2戦

単走部門

 前日の快晴から一転、今にも雨が降りそうな状況下で始まった第2戦の単走。4組のグループ分けのうちBグループ後半で本格的なウェットとなり、通常の全エントリーのトップ16台が追走決勝に進出する方式から、各グループ上位4台が追走トーナメントに進出する方式に切り替えられた。

 単走優勝は、今年からGRカローラを投入した松山選手。前日の第1戦、つまりデビュー戦では木曜日の練習でエンジンブロー、急遽エンジンまるごと載せ換えという波乱のスタートとなったが、単走8位で追走6位。路面コンディションが変わってもさらに順位を上げるポテンシャルの高さを見せつけた。

 前日に99点をマークして単走2位でGR86投入後の最高位となった村上選手は、まだ雨が降らないB組の前半で99.7点をマークして単走優勝に望みをかけたが、ウェットでの再走行となり得点を伸ばせず8位。しかし2日連続の高得点は今季の活躍を予感させるに十分だ。

第2戦 単走部門優勝は松山選手(TOYO TIRES DRIFT GR COROLLA)。
昨年までのGRスープラから乗り換え、今回がデビュー戦となる松山選手。2JZにHKSの3.4Lキットを組み込み、足回りはクスコのパーツを使用。ホイールベースが17cmも長いことで深い角度で安定し、振り返しもマイルドだそうだ。だが新車ゆえのトラブルをどう克服していくかが今後の課題だ。

追走部門

 予選から降り出した雨は時折激しくなり、難しい路面に苦戦する選手が多かった追走。ここで快走を見せたのがシバタイヤを履く2名で、日比野選手と齋藤選手だ。今年から投入されたタイヤの中でもウェットテストを多く経験したシバタイヤ200Dの本領発揮で、どちらも決勝に進出した。

 第1戦で2位の齋藤選手と、ここで勝利すれば11年ぶりの優勝となる日比野選手の対決に会場の緊張感は高まる。しかし、スタートラインに並んだその瞬間、齋藤選手のGRスープラのエンジンが停止。セルを回しても一向に始動できず、リタイアとなってしまった。

 あっけない幕切れとなった第2戦だが、参戦20年以上のベテランが勝ち取った11年ぶりの優勝は、チームメイトでありファーストドライバーの蕎麦切広大選手(SHIBATA RACING TEAM)が、準決勝で齋藤選手に敗れた後のバックアップとしても完璧な仕事を果したカタチになった。

第2戦 追走部門優勝は日比野選手(MOTUL GR86 SHIBATIRE 18)。
日比野選手はD1GP参戦20年以上のベテランだが、しばらく優勝に恵まれず、今回の優勝はなんと11年ぶり。しかもその間に2位が5回。日比野選手ほど優勝を切望していたドライバーはいないだろう。
第2戦の優勝は日比野選手、2位は齋藤選手、3位は田野結希選手、4位は村上選手、5位は蕎麦切選手、6位は横井選手、7位は藤野秀之選手、8位は三好隼人選手、9位は松山選手、10位は松井選手、11位は中村選手、12位は川畑真人選手、13位はヴィトー博貴選手、14位は石川隼也選手、15位はLattapon Keawchin選手、16位は山中選手。

Mike Whiddett選手がRX-3で10年ぶりに参戦!

ニュージーランドから参加の“マッドマイク”ことMike Whiddett選手は、10年ぶりのD1GP参戦。持ち込んだマシンは4ローター搭載のサバンナRX-3ワゴン。唯一の15インチ装着でクラッシックな外観と、耳をつんざくレーシングサウンドのミスマッチっぷりはまさにドリフトパフォーマンスマシンだ。

 奥伊吹ラウンドで特筆すべきトピックスは、今年からデビューした若手の台頭だ。ひとりは2022年のD1ライツシリーズチャンピオンで、2023年はシリーズ3位でステップアップしてき田野結希選手(TEAM D-MAX RACING)。もうひとりは2023年のD1ライツでシリーズ2位の好成績を残してステップアップした山中真生選手(ウエインズトヨタ神奈川 × 俺だっ!レーシング)だ。

 名門TEAM D-MAX RACINGに入り、昨年まで末永正雄選手が乗っていた日産・シルビアを駆る田野選手は、第1戦こそ追走トーナメント進出が叶わなかったが、第2戦では歴戦の猛者を相手に堂々の追走部門3位を獲得。山中選手はウエインズトヨタ神奈川 × 俺だっ!レーシングに入り、昨年まで最上弦毅選手が乗っていたGRスープラを駆って2戦とも追走部門へ進出。コース自体はD1ライツで経験があるものの、マシンを乗り換えた初戦での好成績で周囲を驚かせた。

 ふたりに共通しているのは、普段ほとんど実車に乗らず、ドリフト専用のドライビングシミュレーターで練習していること。そして、D1ライツ時代から参加チームの契約ドライバーだということ。これまでのドリフト競技選手は自分で購入したマシンに手を入れながらステップアップして、のちに専属ドライバーとして地位を確立することが多いのだが、彼らは競技ドリフトのスタートから専属ドライバーなのだ。

 タイヤなど消耗品代がかからず、クラッシュの危険性がないシミュレーター、そしてドリフト競技に使われるコースがバーチャルに反映できる現代において、彼らのような“デジタル世代”の活躍はドリフト競技の未来を変えていくのだろう。

田野選手と山中選手が早くも追走で対決。普段からシミュレーターでオンライン対戦しているふたりはベテランに劣ることのない“D1GPらしい勝負“を見せた。
田野選手はTEAM D-MAX RACING加入で昨年の末永号が与えられた。D1ライツ時代からの慣れに合わせてサイドブレーキを純正ワイヤー式から油圧式に変更している。早くも追走部門3位入賞でルーキーオブザイヤー争いのトップに立った。
D1GPデビュー戦となる第1戦で単走部門5位に入り周囲を驚かせた山中選手。参戦するGRスープラは車両慣れしているとはいえ、3.4Lのエンジン仕様で走らせ方を変える必要があった。そんな中でも適応力の高さを見せていた。

フォト/SKILLD レポート/SKILLD、JAFスポーツ編集部

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