2024年の全日本カート選手権EV部門の参戦ドライバーとチーム体制の詳細が明らかに

レポート カート

2024年6月5日

全日本カート選手権EV部門にワンメイクマシンを提供し、そのシリーズの運営を行う株式会社トムスが、5月30日に東京都江東区のシティサーキット東京ベイ(CCTB)で、今季の同選手権の大会概要とチーム体制の発表会を開催。同時にシリーズに参加する6チームの所属ドライバーを決定する“ドラフト会議”も行われた。

2024年「全日本カート選手権EV部門」大会概要およびチーム体制発表会
開催日:2024年5月30日
開催地:シティサーキット東京ベイ(東京都江東区)
主催:株式会社トムス

 2024年の全日本カート選手権EV部門おける大会概要およびチーム体制発表会と銘打たれたこの発表会では、株式会社トムス代表取締役社長で、全日本EV部門のシリーズオーガナイザーを務めるTOM'Sカートクラブ(レーシングチームあかつきとの共同オーガナイズ)の代表でもある谷本勲氏が自ら壇上に立ち、ブリーフィングなどを担当した。

 まず語られたのは、モータースポーツの底辺を支えるカートレースの存在意義と、第一次F1ブームの渦中にあった1995年をピークにカート業界が縮小傾向にある現状だ。その打開策として、静粛性に優れ、都市部でもサーキットの建設が可能なEVカートが高い有効性を持っていることなどが挙げられた。

 続いて自民党モータースポーツ振興議員連盟の事務局長であり、2024年の同選手権の大会名誉会長を務める山本左近衆議院議員が臨席していたことで、挨拶に立ち、新たなシーズンに向けてエールを送った。

最初に行われたのが大会概要説明。トムスの谷本勲代表取締役社長がまずカートの現状を説明し、抱えている課題そして対策を挙げつつ、これから目指す方向性について語った。
体制発表会には大会名誉会長を務める山本左近衆議院議員が臨席。「モータースポーツの未来が輝く大会になることを信じております」と挨拶を行った。

 そしてスタートから3年目を迎える全日本EV部門の2024シリーズの概要が発表される。すでにJAFから公示されたとおり、宮城県村田町のスポーツランドSUGO西コースでの第1戦/第2戦を皮切りに、CCTBで第3戦~第5戦を行う全4大会・5戦のスケジュールが紹介された。また既報のとおり、2024シリーズが6チームによる“チーム制”で行われることを改めて発表。ここでは各チームの車両の暫定カラーリングもイラストで公表されている。

 それに加えて、ドライバー育成を目的とした各種賞典が紹介される。各大会優勝者には賞金+フォーミュラカレッジ初級コース参加権(3回目以降は中級コース)が、年間優勝者には賞金+FIA-F4ルーキーテスト参加権利が贈呈されることが明かされた。

これまで開催されてきた全日本EV部門とは異なるチーム制が採られ、四輪モータースポーツ界でメジャーな6チームが参戦に名乗りを上げている。
ドライバーにとって魅力的な賞典が用意されるのが特長だ。今シーズンは全5戦中4戦のポイントが有効となり、賞金のほかに四輪ステップアップに向けての参加権が得られる。

 その後に行われたのが、今回の発表会の目玉ともいえるドラフト会議だ。ドラフトの対象となるのは、2024シリーズ参加の公募にエントリーした47名の中から、書類選考を経て4月29日と5月6日のオーディションに参加した19名のドライバーだ。

 6つのチームは、ドラフトに先立って自ら選出したチーム選抜選手1名をノミネートすることが可能で、それ以外の最低1名をドラフトで指名しなければならない。各チームは事前にドラフトで指名するドライバーを申告。それが重複した場合はプロ野球のドラフト会議さながら、○が書かれた紙が入った封筒を各チームの代表が引く抽選方式でチーム所属選手が決まる趣向だ。

一次選考を通過した選手たちは、二次選考の実技審査内でチームオーナーとの面談を終えている。誰が選ばれるかはチームオーナーのみぞ知る状態だ。
当日の模様はYouTubeでリアルタイム配信されており、オーディション参加者たちはモニターの前で固唾を呑んでドラフトの結果を見守ることとなった。

 最初に行われたのはチーム選抜選手(ドラフト外)の発表。「CVSTOS×AGURI EV Kart Racing Team」には佐藤蓮選手が、「REALIZE KONDO EV Kart Racing Team」には小高一斗選手が、「ANEST IWATA EV Kart Racing Team」にはイゴール・フラガ選手が、「TOM'S EV Kart Racing Team」には金本きれい選手が所属することが明らかにされた。

 そして「HIGHSPEED Étoile Racing EV Kart team」と「KNC EV Kart Racing Team」は、チーム選抜ドライバーをノミネートせず、それぞれ2名をドラフトで指名することを選択。8つのシートがドラフトによって決まることになった。

プロ野球のドラフト会議と同じく、チーム陣営ごとに着席して静かに見守る。最初はチーム選抜選手の発表だ。
チーム選抜選手の名前が読み上げられてスクリーンに映し出されると、驚きの声が各所から漏れた。

 会場に列席した6チームの代表(HIGHSPEED Étoile Racingのみ代表代理が出席)の前で、いよいよドラフト指名選手の発表が行われた。その第一順で決まったのが、「ANEST IWATA」が指名した三村壮太郎選手と、「HIGHSPEED Étoile Racing」が指名した白石樹望選手の2名。

 一方、「CVSTOS×AGURI」と「TOM'S」は酒井龍太郎選手を、「REALIZE KONDO」と「KNC」は鈴木悠太選手を指名し、指名が重複した各チームの代表が壇上に上がって抽選が行われることになった。カートのみならずモータースポーツの世界では見られることのなかったドラフト抽選の光景に、場内にはあちこちで歓声が沸く。

 そんなにぎやかな雰囲気の中で見事に○印の紙を引き当てたのは、「CVSTOS×AGURI」チーム代表の鈴木亜久里氏と「KNC」チーム代表の子安英樹氏。それぞれ酒井選手と鈴木悠太選手を獲得だ。抽選に外れた2チームは、第2希望として「REALIZE KONDO」が中井陽斗選手を、「TOM'S」が松井沙麗選手を指名。まず6名のドラフト採用が決まった。

チームオーナー同士の見えない駆け引きが感じられる中、いよいよドラフト指名選手が発表される。
ANEST IWATA EV Kart Racing Teamは三村壮太郎選手を単独指名。
HIGHSPEED Étoile Racing EV Kart teamは白石樹望選手を単独指名。
CVSTOS×AGURI EV Kart Racing TeamとTOM'S EV Kart Racing Teamは酒井龍太郎選手を指名。
CVSTOS×AGURIからは河合寿也氏が、TOM'Sからは舘信秀氏が抽選に臨み、CVSTOS×AGURIが○を引き当てた。舘氏は思わず苦笑いを見せる。
REALIZE KONDO EV Kart Racing TeamとKNC EV Kart Racing Teamは鈴木悠太選手を指名。
REALIZE KONDOからは近藤真彦氏が、KNCからは子安英樹氏が抽選に臨み、KNCが○を引き当てた。近藤氏は封筒を叩きつけて悔しさを滲ませていた。
第1希望選手の指名権を失ったREALIZE KONDOは中井陽斗選手を単独指名。
第1希望選手の指名権を失ったTOM'Sは松井沙麗選手を単独指名。

CVSTOS×AGURI EV Kart Racing Team チーム代表 鈴木亜久里氏

ドラフトで酒井選手を選んだ理由を尋ねると「僕と誕生日(6月9日)が同じだから(笑)」とおどけて見せた鈴木亜久里氏。「まぁそれは冗談として、全日本のレースを見ていて、まだ13歳なのにすごく有望な選手だったからです。現状でも速いし伸びしろがいっぱいある選手なんで、楽しみだなと思っています」と期待度の高さがうかがえた。「佐藤蓮と一緒にチームを組ませれば勉強になるし、強い選手になると思いますよ」とコメント。

KNC EV Kart Racing Team チーム代表 子安英樹氏

「ビギナーズラックに恵まれて、希望する鈴木悠太選手を獲得することができて何よりです」と笑顔で答えたのは子安英樹氏。決め手について「オーディション会場で彼の走りを見させていただいて、彼の目がギラギラしていて気持ちが伝わってきて、こういう選手を応援したいなって思いました。鈴木悠太選手にはテッペンを獲ってほしいと思います」と語る。ともに15歳の鈴木悠太選手と鈴木恵武選手の“ダブル鈴木”の活躍にも注目のチームだ。

 残るのはチーム選抜ドライバーをノミネートしなかった2チームの第二順選択だ。ここでは「HIGHSPEED Étoile」が奥田もも選手を、「KNC」が鈴木恵武選手を指名した。こうして2024シリーズに参加する全12名の顔ぶれが決定。

 なお「TOM'S」と「HIGHSPEED Étoile」がともに女性ドライバー2名を擁し、四輪レースのトップカテゴリーで活躍中のドライバーも参戦する注目度の高いラインアップが、リアルタイム配信の下で全国に明らかにされ、なごやかな熱気に包まれながら発表会は幕を閉じた。

2巡目でHIGHSPEED Étoile Racingは奥田もも選手を単独指名。
2巡目でKNCは鈴木恵武選手を単独指名した。
どのチームも実力のあるドライバーが揃った。各チームどのように戦っていくのか、今シーズンの開幕が待ち遠しい。

 発表会終了後、谷本氏は今季の同選手権を盛り上げるためのユニークな計画がいくつかあることを明かしてくれた。ひとつはチーム制のレースという特色を活かした、チーム間競争によるシリーズ振興策。全日本選手権としてのドライバーランキングとは別に、遊び心を加えたチームランキングを6チームで競い合ったらどうかという案が、チームオーナー間の話し合いで上がっているのだという。

 また、同時開催のレースが予定されておらずスケジュールに余裕のあるCCTBでの3大会では、キッズ向けのイベントやタンデムカートを使ったトップドライバーとの同乗走行など、観戦に訪れた人たちが楽しめる催しを立案中。さらに、コースの照明が充実しているCCTBでの大会では、ナイターでのレース開催もプランに上がっているそうだ。

 加えて、CCBTで開催される第3戦~第5戦では、コンパクトなコースでの安全性を考慮して、参加全車をグループ分けした上でその総当たり戦によって予選を行い、予選上位の6台のみが決勝に出場できる方式が検討されているとのことだ。

 今回の発表会及びドラフト会議は、レースの参加者のみならずギャラリーも楽しむことができ、企業の注目も集められるような、“外部に向かって開かれたレース”を創ろうという意欲がひしひしと伝わるものだった。スタートから2年間の経験の蓄積を糧に、新たなモータースポーツ像の開拓に挑む2024年の全日本EV部門。6月15~16日、SUGOでのシリーズ開幕が、今から待ち遠しい。

株式会社トムス 代表取締役社長 谷本勲氏

「全日本EV部門は、参加する人のためだけのレースではありません。たくさんの人に観に来てもらいたいと思っています」と、開催にあたり実現したいことを語る谷本氏。「14~15歳のころからあんなスピードで競技をやっているところを観てもらって、『カートってすごいんだね』って思ってもらえたらいいですね」

「今回のドラフト会議は、やってみて面白かったなと正直に思いました。この面白さをもっとたくさんのカートをやっている人たちに伝えていきたいです」と手応えをつかんだそうだ。続けて「来年はもっと事前にオーディションの告知をして、こういう開かれた場でドライバーの選出をするんだということを認識してもらえれば、もっとたくさんの方がオーディションに出てくれるだろうと思います」と構想を述べた。

「今回はオーディションに対する期待値を上げられたかな、というのがひとつ感じたところです。実は一般企業の方も会場にいらっしゃっていたので、その方々が全体構想を含めてどう思われたのか、というのも興味のあるところです。そういう意味でも、得るところのある発表会にできたんじゃないかな、と思っています」

フォト/長谷川拓司、TOM'S、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

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