WRC第7戦、ポーランド初挑戦の勝田貴元選手は序盤の出遅れが影響して総合8位に

レポート ラリー JAFWIM

2024年7月5日

2024年FIA世界ラリー選手権(WRC)第7戦「ラリー・ポーランド」が、6月27~30日にポーランド北東部の都市、ミコワイキを拠点に開催された。1921年に初開催、1973年のWRC初年度にもカレンダーに組み込まれたクラシカルなラリーに、日本人ドライバーの勝田貴元選手もTOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)のマニュファクチャラー登録ドライバーとして参戦。コ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手と組んで、GR YARIS Rally1 HYBRIDを駆った。

2024年FIA世界ラリー選手権 第7戦
ラリー・ポーランド

開催日:2024年6月27~30日
開催地:ポーランド・ミコワイキ周辺

6月27日・シェイクダウン、デイ1 / 6月28日・デイ2

 2017シーズン以来のWRC復帰となったポーランドはハイスピードのグラベルラリーで、勝田貴元選手にとっては初挑戦のラリーだった。

 ポーランド国内で事前のテストを行った勝田貴元選手は「かなりハイスピードなステージで、フィンランドやエストニアに似ていることもあって、得意意識はありました。それにテストのフィーリングも良かったので、かなり戦えるんじゃないかな…… と思っていました」と好感触を得ていた。さらに「他のラリーは経験があるので、前年のペースノートで予習して改善していってるんですけど、ポーランドは初めてなのでレッキに関してもストレスフルでしたが、ペースノート自体は思うようにつくれました」と、手応えを語った。

 こうして初挑戦のポーランドに向けて準備を進めた勝田貴元選手は、27日のシェイクダウンで6番手タイムをマークすると、同日の夕方に行われたスーパーSSのSS1で4番手タイムをマークし、順調な立ち上がりを見せていた。

 しかし、翌28日のデイ2より本格的なラリーが始まると、勝田貴元選手は苦戦の展開を強いられた。「クルマのフィーリングが悪くてアンダーステアが強く、曲がらない・曲げられない状態でタイムを失いました」と、語るようにSS2で7番手タイムに出遅れると、SS3とSS4は8番手タイムにとどまることとなったのである。

 勝田貴元選手は「金曜日はミッドデイサービスがなかったので大きな変更ができませんでしたが、ステージ間で微調整を行ないました。デフのセッティングをアジャストしたことで、午後は少しだけペースを上げることができました」と、語るようにセカンドループで復調。SS6でトップから0.2秒差の同タイムで2番手タイムをマークすると、デイ2最後のSSとなるSS8で、チームメイトのカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組とやはり同タイムながら、ベストタイムをマークした。

 しかし、「根本的にセッティングを外したこともあって、午前中にタイムを失ったことが大きかったです。出だしでかなり後方につけることになりました」と語るように勝田貴元選手はトップから32秒3遅れの総合8番手でデイ2を終えることになった。

事前テストから好調だった勝田貴元選手と、コ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手(TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team)のデイ1は総合4番手と好発進。しかし、デイ2の序盤でタイムが伸びず、後半で巻き返すも総合8番手まで後退。この順位の影響で、デイ3以降は早いスタート順で“砂利掻き”を強いられてタイムも順位も上げられず、総合8位フィニッシュと悔しいラリーとなったが、学びも得たようだ。

6月29日・デイ3 / 6月30日・デイ4

 このようにデイ2で大きく出遅れた勝田貴元選手は、29日のデイ3でも苦戦を強いられた。「クルマのセッティングは金曜日の最終サービスで大きく変更したので、かなりフィーリングは良くなったんですけどね」とのことだったが、「デイ2のリザルトが影響して、デイ3の出走順が2番目で、午後に関してはオイット・タナック選手が出走しなかったこともあって先頭からスタートすることになったんですけど、思った以上にペースを上げられませんでした」と、苦しんだ状況を語った。

 そのとおり、勝田貴元選手はSS13での5番手タイムが精一杯で、それ以外のSSは8番手タイムか9番手タイムに低迷、デイ3はトップから約1分42秒遅れに広がり、順位も総合8番手のまま終えた。

 この“砂利掻き”による苦しい状況は30日のデイ4でも続いた。「日曜日も同じような流れになることが予想されたので、スーパーサンデーのポイントを犠牲にして、パワーステージで多くのポイントを取りにいこうとしていました」と、作戦を立てた勝田貴元選手はSS16で8番手タイム、SS17は6番手タイム、SS18を7番手タイムで終えていた。

 しかし、「パワーステージでは、いいプッシュができていたんですけど、ひとつのコーナーでブレーキングミスをして、大きくタイムをロスしてしまいました」と、ポイント獲得を賭けた最終SS18は、7番手タイムとなってしまった。

 その結果、勝田貴元選手は総合8位で完走して3ポイントを獲得した他、スーパーサンデーで2ポイント、パワーステージで1ポイントを稼いだ。「全体的には苦戦して悔しい一戦でした。特に金曜日の午前中で出遅れると、その差を引きずってしまう。ハイスピードラリーでタイムを失うと取り返せないので、苦しかったです」と、苦しんだポーランドを振り返った。

 そしてこのラリーのSSに関して、「フィンランドやエストニアのようにハイスピードなんですけど、ハードな部分もあれば、砂が多くて柔らかいセクションが分かれていたりで、そのあたりが特徴的でした」と、路面の感想を語った。

 さらに、勝田貴元選手は「インカットが多かった。最近のWRCは“アンチカットブロック”をコーナーのイン側に置いてインカットを防いでいるんですけど、ポーランドはハイスピードなうえに、インカットができるコーナーが多いんです」と、特徴を語る。「インカットができるとスピードをキャリーできるので、ペースノートの数字以上に速く走れるコーナーが多かったです。ひとつのコーナーで速度を2km/h乗せていけるかどうかで、次のストレートで1秒変わってくるんですけど、そのあたりの“読み”が難しかったですね」と、分析した。

 第8戦の「ラリー・ラトビア」について、勝田貴元選手によると「ラトビアも初めてのラリーになりますが、多くの選手が出場経験を持つポーランドと違って、ラトビアはほとんどの選手が初出場となることから、結果を狙っていきやすいラリーだと思います」とのことだ。

 その一方で、「ラトビアでのテストは予定されていませんが、ポーランドでは持ち込みのセッティングを外したことは大きかったです。チームではその原因を調査してもらっていますが、同時にドライビングでタイムロスしているところもエンジニアと調査していくので、ポーランドでペースを出しきれなかったところを見つけて改善していきたい。金曜日の朝から100%のプッシュをできるようにしたいです」と、意気込んでいるだけに、7月18~21日に開催されるラトビアでの勝田貴元選手の挽回に注目したい。

 なおポーランドは、ロバンペラ/ハルットゥネン組が今季3勝目を挙げた。当初はセバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組が参戦予定だったが、レッキ中に交通事故に遭遇。幸い怪我人は出なかったものの、オジエ選手が医師の観察下に置かれた。これを受けてロバンペラ/ハルットゥネン組が急遽参戦することになったが準備不足をものともせず、19本中8本のSSを制して王者の貫禄を見せた。

 チームメイトのエルフィン・エバンス/スコット・マーティン組も総合2位に入り、TGR-WRTは今季3度目の1-2フィニッシュを達成。M-SPORT FORD WORLD RALLY TEAMで、フォードPuma Rally1 HYBRIDを駆るアドリアン・フォルモー/アレクサンドレ・コリア組が総合3位で表彰台に上がった。

 ドライバーおよびコ・ドライバーランキングではエバンス/マーティン組が単独2番手に立ち、トップのHYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAM(ヒョンデ)のティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ組との差を15ポイント差に縮めた。マニュファクチャラーランキングでも、2番手のTGR-WRTがトップのヒョンデとの差を10ポイントまで近づけた。

カッレ・ロバンペラ(右)/ヨンネ・ハルットゥネン(左)組(TGR-WRT)は準備もそこそこで慌ただしい代役参戦にも関わらず、総合優勝。ロバンペラ選手が背負うカーナンバーと同じ数、69回めのWRC参戦となった一戦で、メモリアルな勝利を挙げた。
WRC2では、前戦「ラリー・イタリア・サルディニア」でクラス優勝を果たし、第9戦「ラリー・フィンランド」でのRally1デビューが控えるドライバーのサミ・パヤリ選手(プリント・スポーツ)が、女性コ・ドライバーのエンリ・マルコネン選手とともにGR Yaris Rally2を駆って二連勝を挙げた。2024シーズンからWRC参戦を果たしたGR Yaris Rally2は第5戦「ラリー・ポルトガル」でヤン・ソランス/ロドリゴ・フアンフラン組(テオ・マーティン・モータースポーツ)によって達成したWRC初優勝から三連勝、デビューシーズンから速さを見せている。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing、Red Bull Media House レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

ページ
トップへ