山下健太選手が初開催のCCTBラウンドを制す。代役参戦ドライバーが大活躍!

レポート カート

2024年7月31日

全日本カート選手権 EV部門の第3戦が7月15日、東京都江東区のシティサーキット東京ベイ(CCTB)で開催。2グループに分けられた予選で3番手以内になった全6台による決勝では、小高一斗選手の代役でこの選手権初出場の山下健太選手がポールから優勝を飾った。

2024年JAF全日本カート選手権 EV部門 第3戦
開催日:2024年7月15日
開催地:シティサーキット東京ベイ(東京都江東区)
主催:RTA、TOM'S

 全5戦で組まれている全日本カート選手権 EV部門の2024シリーズは、6月15~16日に宮城県村田町のスポーツランドSUGO西コースで開幕。そのSUGO大会(第1戦/第2戦)では2レース制が採られていたのだが、以降の第3戦~第5戦はすべてCCTBを舞台として、1レース制で大会が行われる。

 今回の第3戦は週末ではなく、祝日にあたる海の日の月曜日に開催。前日には三重県鈴鹿市の鈴鹿サーキット南コースで全日本カート選手権 OK部門の第5戦/第6戦が行われており、両方のレースに参加する4名のドライバーは、OK部門のレースを終えるとすぐ東京まで遠路移動することになった。

CCTBでの全日本選手権開催に先立って、7月4~5日に練習走行会と模擬レースを実施。併せてTOM'S EV Kart Racing Teamの松井沙麗選手が海外遠征により第3戦を欠場するため、その代役ドライバーを決めるオーディションも行われた。
2018年の全日本カート選手権 FS-125部門チャンピオンの髙口大将選手が模擬レース2位フィニッシュで実力をアピール。後日、オーディションで選出された報を受けて、今大会はTOM'Sからのスポット参戦が叶った。
鈴木悠太選手(KNC EV Kart Racing Team)は、鈴鹿では全日本OK部門とGPR Shifterのダブルエントリーでそれぞれ2戦ずつレースをこなしている。そして翌日に東京でEV部門のレースに参加するハードスケジュールとなった。

 CCTBはかつて東京ベイエリアにあったパレットタウン跡地の再開発された場所に位置し、新交通ゆりかもめ・青海駅の真横につくられた、2023年12月オープンの真新しいモータースポーツ施設。都心のコースで全日本カート選手権が行われるのは、2022年11月にお台場のJAFモータースポーツジャパン特設コースで開催された同部門第6戦以来。パーマネントコースでは異例のことだ。

 そんなCCTBは、約400mの全長に15のコーナーを持つコンパクトなEVカート専門のサーキットで、普段はレンタルカートの営業等に使用されている。コースサイドはテックプロバリアーズ(プラスチック製バリア)で仕切られ、エスケープゾーンはない。オーバーテイクが容易ではないため、いいスターティンググリッドを得ることが非常に重要だと言える。

都心近郊からのアクセスにも長けた都市型サーキットとして、大きな注目を集めているCCTB。普段はレンタルEVカートでタイムアタックに励む一般客で賑わっているコースが全日本選手権の舞台となった。
限られたスペースを有効活用しながら全長約400mを確保した、CCTB屋外コースのSKY TRACK。15あるコーナーの中には傾斜もついている場所もあり、高いドライビングスキルが求められる。
CCTBを企画運営するTOM'Sの谷本勲代表取締役社長が開会の挨拶を行う。都市型サーキットでの全日本カート選手権EV部門の開催が実現し、喜びの声を発した。

 このタイトなコースでの安全性を確保するため、各ヒートでは出走台数を制限。全12台の参加者をふたつのグループに分けて予選を実施し、その3番手までと4番手以下でそれぞれ6台ずつの決勝(決勝レースA/決勝レースB)を行うレースフォーマットが採用された。

 また1周が短いコースであることを考慮して、アクシデント発生時にはマシン撤去などの時間を稼ぐため、コース全域でイエローフラッグが出されることに。加えてワンメイクマシンのTOM'S EVK22は重量127kg(同選手権公式サイトによる)というヘビー級カートで、その移動には4名を要するため、各ポストには通常のカートレースより多くのコースマーシャルが配置されていた。

EV部門の開催実績も豊富な、JAF登録クラブのレーシングチームあかつきが主体となって今大会オフィシャルを担う。招集されたオフィシャルは事前にコースのチェックを念入りに行っていた。
マシントラブル等がコース上で起きた際にカートを速やかに移動させるため、オフィシャルの人員を増加して対応。ドライバーに分かりやすくするため各ポストのイエローフラッグで注意を促す。
ドライバーズブリーフィングの後、1周計測で実施されるタイムトライアルの走行順を決める抽選が行われた。タイムトライアルの結果次第で予選ヒートのグループ分けが決まる。

 SUGOでの開幕大会から約1か月を経て、6つの参加チームではチームカラーのレーシングスーツがほぼ完成。マシンとのカラーリングも相まって、サーキットの華やかな雰囲気に一層拍車をかけていた。四輪レースのトップカテゴリーで活躍するドライバーや、チーム監督にも有名人が多くいる大会とあって、会場は朝から大勢の観戦客でにぎわっていた。

 EV部門の各セッションの合間には、一般来場者が参加できる企画を用意。1周計測でベストタイムを競うタイムトライアル大会、現役プロドライバーがステアリングを握る隣でサーキットを体感できるEVタンデムカートの同乗走行、ランチセットとパッケージになった決勝グリッドウォークが行われた。

前戦のSUGO大会では各選手が用意したレーシングスーツだったが、今回からはチームカラーのレーシングスーツを着てレースに臨むことに。チーム制ならではの斬新な彩りを見せた。
グリッドウォークには多くのファンが詰めかけた。普段のカートレースとは異なる賑わいで、とくに若手ドライバーたちは慣れない雰囲気に戸惑いを見せつつも、気さくに写真撮影に応じるなど催しを楽しんでいた。
気軽にモータースポーツの魅力を感じてもらう観戦者向けイベントを多数用意。タイムトライアル大会「CCTB TT」はEV部門と同じタイムトライアル形式が採られ、1周計測でベストタイムを競う内容だった。
レースに参戦するドライバーがハンドルを握る2人乗りEVカートに同乗できる走行体験が実施された。ゆったりコースの周遊から、レース本番さながらの攻めた走りまで、同乗者は貴重な体験を存分に満喫していた。

CVSTOS × AGURI EV Kart Racing Team

チーム代表:鈴木亜久里氏。ドライバー:佐藤蓮選手、酒井龍太郎選手。

REALIZE KONDO EV Kart Racing Team

チーム代表:近藤真彦氏。ドライバー:山下健太選手、中井陽斗選手。※山下選手は小高一斗選手の代役。

TOM'S EV Kart Racing Team

チーム代表:舘信秀氏。ドライバー:金本きれい選手、髙口大将選手。※髙口選手は松井沙麗選手の代役。

ANEST IWATA EV Kart Racing Team

チーム代表:武田克己氏。ドライバー:イゴール・フラガ選手、三村壮太郎選手。

HIGHSPEED Étoile Racing EV Kart Team

チーム代表:中川隆太郎氏(欠席)。ドライバー:奥田もも選手、白石樹望選手。※川合孝汰氏は代表代理。

KNC EV Kart Racing Team

チーム代表:子安英樹氏。ドライバー:鈴木悠太選手、鈴木恵武選手。

タイムトライアル

 予選ヒートのグループ分けとグリッド順を決めるタイムトライアルは、各車単独走行の1周アタックだ。ここで25秒496のトップタイムを叩き出したのは、2018年全日本FS-125部門チャンピオンで、オーディションを経てスポット参戦を果たした髙口大将選手だった。今回は海外参戦のため欠場した松井沙麗選手の代役だったのだが、そのワンチャンスを見事に生かし、久々のカートレースで変わらぬ速さをアピールしてみせた。

 0.011秒差の2番手はイゴール・フラガ選手。3番手には、こちらも小高一斗選手の代役として初参戦の山下健太選手がつけた。この結果の奇数順位が予選Aグループに、偶数順位が予選Bグループに振り分けられる。そして予選は各15周のレースで、決勝では予選Aグループのドライバーがスターティンググリッドのイン側列に、予選Bグループのドライバーがアウト側列に並ぶこととなる。

並みいる選手を抑えてタイムトライアルでトップタイムを奪ったのは髙口選手(TOM'S EV Kart Racing Team)。

予選

 予選Aグループでは、この選手権ならではのスタンディングスタートに不慣れな髙口選手を出し抜き、セカンドグリッドの山下選手が抜群のスタートダッシュを見せてトップに浮上。途中のフルコースイエローにも邪魔されることなく先頭の座を守り切り、決勝レースAのポールを獲得した。髙口選手は4台一列の先頭集団で後続の逆転を許さず2番手に。3番手には三村壮太郎選手が入り、ここまでが決勝レースAへの進出を果たした。

 予選Bグループでは、ポールのフラガ選手がトップのまま走り切ってチェッカーを受け、決勝レースAのセカンドグリッドを手に入れた。第1戦/第2戦を欠場して今回が初参戦となった佐藤蓮選手は、タイムトライアルで8番手と出遅れたのだが、4番グリッドからのスタートでひとつポジションを上げると、終盤に鈴木悠太選手を抜き去って2番手でゴール。佐藤選手に続いて鈴木悠太選手の前に出た中井陽斗選手が3番手に入り、決勝レースAへの進出に成功した。

決勝レースAのポールポジションは予選Aグループでホールショットを奪って逃げ切った山下健太選手(REALIZE KONDO EV Kart Racing Team)が獲得。

決勝

 決勝の開始時間は15時で、周回数はA/Bの2レースとも20周だ。まず行われるのは決勝レースB。表彰のないレースではあるが、順位が決まるとあってドライバーたちは手を抜くことを許されない。メインストレート上に6台のマシンが並べられると、そこに観戦エリアからグリッドウォーク券を購入した多数のギャラリーが入ってきた。大賑わいになったグリッドで、レース本番を間近に控えたドライバーたちも、写真撮影などのリクエストに気軽に応えている。これまでの全日本カート選手権では見られなかった新鮮な光景だ。

 グリッドからギャラリーたちが退去し、いよいよ決勝開始の時間が訪れた。決勝レースBのポールは、予選Aグループで果敢にトップグループに食い下がった金本きれい選手。その横に並ぶのは予選Bグループ4番手の鈴木悠太選手だ。6台のマシンがフォーメーションラップを終えて再びグリッドに停止すると、ストレートエンドの大きなモニターにレッドライトが映され、そのブラックアウトでレースがスタート。ここで鈴木悠太選手がトップ浮上に成功し、3番グリッドの鈴木恵武選手も金本選手に先行して2番手に上がった。

 KNC EV Kart Racing Teamの鈴木コンビは3番手以下をやや引き離したのだが、12周目にアクシデントでフルコースイエローとなり、レースは仕切り直しに。14周目終了時点にイエローが解除されてレースが再開されると、2番手の鈴木恵武選手は真後ろに続く金本選手の防戦に追われるようになり、これで背後のプレッシャーから解放された鈴木悠太選手が独走で1位(総合7位)フィニッシュを果たした。2番手ゴールの鈴木恵武選手は走路妨害のペナルティを課され、3番手ゴールの金本選手もフロントフェアリングのペナルティを受け、2位(総合8位)は白石樹望選手、3位(総合9位)は奥田もも選手のものとなった。

決勝レースBの1位(総合7位)は鈴木悠太選手(KNC EV Kart Racing Team)。

 続いて行われた決勝レースAでは、山下選手とフラガ選手が序盤でそれぞれ背後にいくらかのギャップをつくり、髙口選手、佐藤選手、三村選手が3番手争いの集団を形成する展開となった。レースが残り3分の1になると、フラガ選手との間隔を詰めた髙口選手が勝負を仕掛け、その隙を突いて佐藤選手が一気に2番手へ躍進、髙口選手が3番手に上がった。

 このバトルのさなか、三村選手がアクシデントで戦線を離脱。これでレースはフルコースイエローとなった。バトルが再開されたのは残り2周だ。するとフラガ選手が1コーナーで髙口選手を再逆転して3番手に浮上。さらにポジションアップを狙うフラガ選手に、佐藤選手は鉄壁の防御で応じる。これで楽になった先頭の山下選手は、背後に約1秒のギャップを開いてフィニッシュ、代役の初出場で見事勝利をつかみ取ってみせた。

 こちらも初参戦の佐藤選手は、オーバーテイクショーでギャラリーを沸かせて2位を獲得。フラガ選手が3位に入り、プロドライバーが表彰台の3席を独占する結果となった。タイムトライアルでトップの髙口選手は4位に終わるも、育成ドライバー最上位としてトムス・フォーミュラ・カレッジのエクスペリエンスコース参加権の賞典を授与された。5位は中井選手。チャンピオン争いの渦中にある三村選手は14周リタイアに終わったが、完走扱いとなりシリーズポイントの獲得に成功した。

決勝レースAの優勝は山下選手(REALIZE KONDO EV Kart Racing Team)。
「全日本カート選手権はSuper KF部門に出ていた2011年以来です」と言いながらもブランクを感じさせない走りを見せた山下選手。「突然、代役参戦が決まったこともあって活躍できるとは思っていませんでした。普通のカートレースとは違って、EVで重いカートでテクニカルコースでしたが、優勝できたのは自分の経験が生きた部分があったのかなと思います。あとは一斗に頑張ってもらいたいですね」と代役の責を十分に果たした。
総合2位は佐藤蓮選手(CVSTOS × AGURI EV Kart Racing Team)、3位はイゴール・フラガ選手(ANEST IWATA EV Kart Racing Team)。
第3戦の表彰式。左から4位の髙口選手、2位の佐藤選手、1位の山下選手、3位のフラガ選手。
上位3名がプロドライバーのため、育成ドライバー最上位の髙口選手にトムス・フォーミュラ・カレッジのエクスペリエンスコース招待の賞典が贈られた。

フォト/JAPANKART、今村壮希、長谷川拓司、JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

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