WRCプロモーターGmbHによる”Beyond Rally”女性ドライバー育成プログラムに、全日本ラリー選手権の平川真子選手が選出。Rally3車両でのWRC中欧ラリー出場を目指す
2024年8月28日
FIA世界ラリー選手権(WRC)を運営するWRCプロモーターGmbHが展開する女性ドライバー育成プログラムに、全日本ラリーとKYOJO CUPを戦う平川真子選手が選出された。選ばれた15名のドライバーたちは、まずはWRC中欧ラリー出場をかけた選考会に臨む。
FIA世界ラリー選手権(WRC)を運営するWRCプロモーターGmbHは、ラリークロスプロモーターGmbHと共同で「Beyond Rally」プロジェクトを展開している。これは、モータースポーツの未来を形成し、社会にポジティブなインパクトを与える持続可能な取り組みとして2022年から行われている包括的なプラットフォームとされている。
この取り組みでは、気候変動やガバナンスなどいくつかの分野に焦点が当てられているが、「参加の多様性」というテーマも掲げられており、それを実現するプログラムとして、将来有望な女性ドライバーがキャリアアップするための育成プランを7月から始めている。
そしてこのたび、本プログラムに挑む15名のファイナリストが選出されたことがFIAなどから発表され、そのメンバーの中に、全日本ラリー選手権のJN5クラスをヤリスで戦う平川真子選手が含まれていることが明らかとなった。
このWRCプロモーターGmbHが展開する「Beyond Rally Women's Driver Development Programme」は、2024年1月1日時点で27歳以下の女性を対象として、後の各種選考を通過した1名に対して、2025年のFIAジュニアWRCへのサポート付き参戦を提供するというプログラム。WRCに併催されるFIAジュニアWRCは、WRCに参戦するM-Sportが運営を担当しており、本プログラムはその拠点であるM-Sportポーランドを舞台に行われる。
選出された15名は、9月16~18日にM-Sportポーランド本部で開催されるトレーニングキャンプに参加する。この3日間のキャンプでは、フィジカルテストを始め、フィエスタRally3によるグラベルおよびターマックテスト、シミュレーターでのテスト、ペースノートおよびレッキ能力、メディア対応、メカニカル領域の知識などを評価されるという。
そして、この選考において最も適正を示した3名のドライバーは、10月17~20日に開催されるWRC第12戦セントラルヨーロッパラリーへのフィエスタRally3による参戦招待が与えられる。この大会ではさらなる選考が行われ、それを通過した1名のドライバーには、2025年のFIAジュニアWRCへのフルサポート参戦の権利が与えられるという。
選出されたメンバーの顔ぶれは3大陸13か国に及ぶものの、そのほとんどが欧州のドライバーだった。平川真子選手はラリーの本場において孤軍奮闘することになりそうだ。
平川真子選手は、現在F1パイロットへの道を突き進むTOYOTA GAZOO Racingの平川亮選手の妹として知られているが、モータースポーツの世界には18歳で入門しており、レーシングカートからキャリアを始め、全日本カート選手権OK部門などを経て四輪にステップアップ。2018年にはレーシングドライバーとしてKYOJO CUPに参戦している。
一方で、平川真子選手は奴田原文雄選手が主宰する「ヌタハララリースクール」に入門し、ラリードライバーとしてのキャリアもスタート。地方選手権ラリー参戦などを経て、2022年には全日本ラリー選手権JN3クラスに86でデビューした。2023年からは車両をヤリスに変更してJN5クラスに参戦。2023年以降は全日本ラリー選手権を戦いながら、KYOJO CUPにも参戦し、KYOJO CUPでは2023年と2024年に3位表彰台を獲得している。
今季の全日本ラリー選手権で活躍する平川真子選手に、ラリーを選んだ理由を聞いた。
「サーキットとラリーは走らせ方が全然違っていて、ラリーは、サーキットではありえない方向にクルマが向いたりするし、もしサーキットに落ち葉や砂利が出ていたら掃かれちゃいますよね。ラリーは泥もあって苔もあって、もしかすると動物が出てくるかもしれない。何と言うか、ラリーは自分でノートを作って、コ・ドライバーの方と話し合って、一つ一つを作り上げますよね。それでちょっとでも速く走れたときの喜びが大きいんですよ。ラリーは見えない敵との戦いだと思っていますが、一番大きいのは、”自分と戦っている”というところ。それがすごく楽しいと感じているんです。その点がサーキットとは大きく違う楽しみ方だなと思っていて、現在、どっぷりラリーにハマっています(笑)」
「サーキットだと、操作に対して、今の走りはうまくいったということがデータや体感としてわかるし、それがタイムにもつながっていることがわかるんです。けど、ラリーの場合は、『コレ、うまく行ったでしょ!』と思ったときこそ遅い!みたいなことがよくありますし、逆にタイムが出たときも『今の走りで良かったの??』という感じがあって、とても不思議なんです。サーキットも含めて、私はまだまだ知らないことが多いんですが、駆け引きされてる、みたいに感じるところもあったりして、面白いなと思っています」
「皆さんから、想定外のことに対応できるようになったり、いろいろな”引き出し”を作ることが大事だってよく言われますが、私もまさにその通りだなと思っています。恐らく、走らせ方の対処方法って何パターンもあるんですよね。今は、それを見つけるのが楽しいなと感じています。サーキットだとアンダー寄りで、オーバーなセットってあまりない感じですが、それが林道になると、アンダー出したらすぐ落ちちゃいますよね。なので、リアを出す走りというか、求められるているのが、今までの自分になかった走らせ方だったりするので、現在、研究中です。泥んこになりながら走るのが、今はとても楽しいです」
「ラリーでは四駆に乗ってみたいんです。もともとサーキットでも86とか後輪駆動に乗っていて、FF車には乗ったことがなかったので、現在、FFのヤリスで勉強中なんです。いきなり四駆だと速度域もいきなり高くなるので、いずれは四駆に……という感じです。やっぱり、四駆の走りは見ていてカッコいいんですよね。私は”ザ・昭和”みたいな走りがカッコいいと思っていて(笑)。そういう渋い走りができるようになりたいんです」
「今乗っているヤリスはマニュアルで、四駆に比べれば全然遅いクルマです。でも、クルマの全部を動かして、ハンドルをグルグル回しながらの運転となると、男性より体力が低いと感じる部分もあるので、現在、体を鍛えています。サーキットでは女性もたくさん活躍していて、KYOJO CUPも30台くらいでやってますが、ラリーもそれぐらい盛り上がるといいなと思っています。地域住民の皆さんにもっと理解してもらえるといいなとも思いますし、いずれは、そういう影響力があるドライバーになりたいなと思っています!」
不確定要素の多いラリーと真摯に向き合ってドライビングスキル向上を目指しつつ、人々に憧れられるような走りができるドライバーになりたい。平川真子選手からは、ラリーにかける、意外な思いを聞くことができた。今季の全日本ラリー選手権では、ターマックだけではなく、脱落者が続出したグラベルラリーの第6戦カムイでも完走、そしてポイント獲得を果たしている。着実な進化を遂げる平川真子選手の新たな挑戦に期待したい。
PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、大野洋介[Yousuke OHNO]、株式会社インタープロトモータースポーツ[Inter Proto Series/KYOJO CUP] REPORT/JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]