息詰まる僚友同士の争いは太田格之進選手のリタイアで幕切れに。牧野任祐選手が2勝目を記録

レポート レース

2024年9月3日

全日本スーパーフォーミュラ選手権 第5戦が栃木県茂木町のモビリティリゾートもてぎで開催された。予選では山下健太選手(KONDO RACING)が自身2度目のポールポジションを獲得。決勝レースはDOCOMO TEAM DANDELION RACINGの、牧野任祐選手と太田格之進選手が激しいトップ争いを展開したが、突然太田選手のマシンにトラブルが発生した。これでトップに立った牧野選手が今シーズン2勝目を飾った。

2024年JAF全日本スーパーフォーミュラ選手権 第5戦
モビリティリゾートもてぎ 2&4レース

開催日:2024年8月23~25日
開催地:モビリティリゾートもてぎ(栃木県茂木町)
主催:ホンダモビリティランド株式会社、M.O.S.C.

 この週末は天気が不安定で短時間の集中豪雨も心配されていたが、幸いにも走行中にはまとまった雨が降ってくることはなく、併催の二輪レースも含めドライコンディションでレーススケジュールが進んでいった。

 公式予選に向けたフリー走行では山下選手が2位に0.072秒差をつけてトップタイムをマーク。今年でスーパーフォーミュラ参戦7年目となる山下選手は、若手時代にJAF地方選手権スーパーFJもてぎシリーズでシリーズチャンピオンを獲得し、スーパーフォーミュラのルーキーイヤーにもこのもてぎで初ポールポジションを獲得している。そんな縁のあるサーキットでの順調なスタートに、周囲の期待も高まっていた。

レース当日は夏の日差しが照り付ける場面もあった。そんな中、夏休み終盤ということもあり、ピットウォークなどの催しにも多くの家族連れが訪れていた。
今回の第5戦もてぎがスーパーフォーミュラデビュー戦となったニック・デ・フリース(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)。実車テストなしでの参戦となった模様だ。

予選

 公式予選では、まずDOCOMO TEAM DANDELION RACINGの2台が速さを披露。Q1のA組では太田選手が、B組では牧野選手がそれぞれトップタイムを奪取する。A組で出走した山下選手は太田選手に0.273秒遅れての2番手タイム。3番手の大湯都史樹選手(VERTEX PARTNERS CERUMO・INGING)と山下選手との差は0.073秒、大湯選手と4番手の坪井翔選手(VANTELIN TEAM TOM'S)との差は0.058秒と、それぞれ0.1秒を切る僅差であることを考えると、太田選手のタイムはずば抜けていると言えた。しかし、ポールポジション争いでこれを上回ったのは山下選手だった。

 Q2進出ドライバーのうち、まずは福住仁嶺選手(Kids com Team KCMG)がターゲットタイムを記録すると、すぐさま野尻智紀選手(TEAM MUGEN)がこれを更新。続いて大湯選手が野尻選手を上回りトップに浮上した。牧野選手は野尻選手にわずか0.022秒届かずこの時点で3番手。そして次にコントロールラインに戻ってきた山下選手が、大湯選手のタイムを0.096秒破る1分31秒995を記録して、トップに躍り出た。最後に戻ってきた太田選手は山下選手に0.079秒届かず。山下選手は唯一1分31秒台に入る速さで自身7年ぶり、2度目のポールポジションを獲得することに。太田選手、大湯選手が2番手、3番手に並び、以下、野尻選手、牧野選手、山本尚貴選手(PONOS NAKAJIMA RACING)という予選トップ6になった。

ポールポジションを獲得した山下健太選手(KONDO RACING)と近藤真彦監督。

決勝

 翌日の決勝レースは37周の争い。ポールシッターの山下選手とフロントローの太田選手は順当にスタートを切ったが、3番グリッドの大湯選手はやや出遅れてしまった。一方で抜群のスタートダッシュを決めたのが5番グリッドの牧野選手で、1コーナーでは太田選手にも襲い掛かるほどの勢いを見せた。結果的にはイン側のラインをしっかりと守った太田選手が2番手をキープし、オープニングラップは山下選手、太田選手、牧野選手、大湯選手、野尻選手、小高一斗選手(KONDO RACING)の順で終える。山本選手は珍しくスタートがうまく決まらず7番手に後退していた。

 この後の序盤は上位陣に大きな順位が変動なく、レースは膠着状態のまま周回数が進んでいき、タイヤ交換が可能となる10周終了のタイミングを迎えた。ここで動いたのは太田選手と大湯選手。DOCOMO TEAM DANDELION RACINGは2台そろって上位を走っていたが、より前を走る太田選手にピット作業のタイミングを決める優先権があったため、牧野選手はここではステイアウトし、レース後半でタイヤ交換をすることになった。ここからは、見た目上の上位を走るグループとタイヤ交換を済ませたグループの目に見えない戦いが始まる。12周を終えたところでトップを走る山下選手と見た目上11番手を走る太田選手との差は約25秒。太田選手はフレッシュタイヤを武器にペースを上げ、山下選手とのギャップをみるみる削っていった。

 レースも20周を超え後半に突入すると、残りのドライバーたちが次々にタイヤ交換に向かい始めた。山下選手、牧野選手、野尻選手という暫定トップ3のうち、22周を終えたところでピットに入ったのは牧野選手。太田選手との差はあまり広がっていなかったため、タイヤ交換を済ませたグループの中では3番手でコースに復帰することになった。この牧野選手の動きを見て、アンダーカットを阻止すべく山下選手が動く。翌23周終了のところで山下選手、野尻選手が同時にピットイン。こちらも太田選手の前でコース復帰するのに十分なマージンはなく、山下選手は事実上のトップの座を太田選手に明け渡すことに。さらに、牧野選手のアウトラップが速かったこともあり、4番手でのコース復帰となった。

 牧野選手と山下選手は替えたばかりのタイヤで上位陣を猛追にかかった。まずは2番手を走る大湯選手と牧野選手のバトルが開始。24周目の最終コーナーでテール・トゥ・ノーズにまで迫った2台の戦いは、大湯選手の必死の防戦で翌25周目の4コーナーまで続いたが、5コーナー先でついに牧野選手が先行。大湯選手はこれでタイヤを消耗したか、26周目には山下選手にもかわされて4番手に後退することとなった。

 大湯選手をとらえた牧野選手と、トップを走る太田選手との差は約10秒。しかし牧野選手はさらにペースアップして太田選手を追いかけ、1周につき1秒近く差を削っていく。32周目には2.1秒まで縮めると、33周目には1.3秒、そして34周目にはついに太田選手の0.4秒背後まで迫ってきた。35周目の1コーナーで太田選手のテールにはりつく牧野選手。S字コーナーでは一瞬横に並びかけるも、太田選手がポジションをキープする。牧野選手は続くV字コーナーでも食らいつくと、ヘアピンコーナーでついに太田選手のイン側をさした。ただしここはオーバースピードで止まり切れず、太田選手がクロスラインを取って再びトップを取り戻す。ややコースがワイドに膨らんでしまった牧野選手は太田選手の後ろに下がる形でバックストレートへ。互いにオーバーテイクシステム(OTS)を使い、一歩も引かずに90度コーナーへと飛び込んでいく。

 レコードラインに踏みとどまった太田選手が牧野選手の攻めを抑え、この周は太田選手がトップを守って36周目へと入っていった。この周も2人の戦いは続く。差は約0.5秒とやや離れたように見えるが、わずかなミスも許されない距離感であるのは変わらない。緊迫したままヘアピンコーナーまでクリアし、2台はバックストレートを下っていった。

 しかし、一瞬先に90度コーナーへ飛び込んだ太田選手のマシンがいきなりリアを滑らせスピン。間一髪で避けた牧野選手は太田選手のマシンを横目にセカンドアンダーブリッジをくぐっていく。スロットルトラブルによるスピンで、太田選手はマシンをコースサイドに止め、ここでリタイア。チームメイト同士の激しいトップ争いは、思ってもいない形で幕引きとなってしまった。

 トップに立った牧野選手はそのままファイナルラップへ。約6秒後方の山下選手がOTSを目いっぱい使って追いかけてくるも逆転には至らず、牧野選手がトップチェッカーを受けた。これで通算2勝目を飾った牧野選手だが、思わぬ形での決着に複雑な表情を隠せなかった。2位は山下選手、3位に野尻選手が入り、野尻選手は今季4度目の表彰台獲得でランキングトップを維持。ランキング2番手には牧野選手が浮上し、このレースを5位で終えた坪井選手が3番手に着けている。

スタートで抜群のダッシュを見せたのが5番手スタートだった牧野任祐選手(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)。
ランキングトップの野尻智紀選手(TEAM MUGEN)は3位に入り、ポイントリーダーの座を守った。
ポールスタートの山下選手だったが、アンダーカットを許すなどして2位。
最終周手前での太田格之進選手(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)のリタイアもあり逆転勝利を収めることになった牧野選手。
スーパーフォーミュラ第5戦の表彰式。左から2位の山下選手、1位のDOCOMO TEAM DANDELION RACING村岡潔チーム・プリンシパルと牧野選手、3位の野尻選手。
太田選手はマシントラブルによりスピンを喫しコースアウト。勝利を目前で逃すことになった。優勝した牧野選手も「今日は太田選手のレースだった。勝負には負けたのかなと思っています」とチームメイトを慮った。
金曜日の会場では実車を使用したレスキュー訓練がオフィシャルらにより実施された。ドライバーの頭部や頸部を守りながら車外に救出し、バックボードに乗せるまでの手順等をオフィシャル間で共有した。

フォト/石原康、遠藤樹弥、大野洋介 レポート/浅見理美、JAFスポーツ編集部

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