サブスクでモータースポーツを楽しむ時代が到来か!? 未来の競技振興の可能性を秘めたイベントが開催

レポート その他

2024年12月26日

トヨタ車を中心に自動車のサブスクリプションサービスを展開している株式会社KINTO(KINTO)が、モータースポーツ体験イベントを開催した。このイベントは12月に2回実施され、6日に千葉県袖ケ浦市の袖ヶ浦フォレストレースウェイにてサーキットの走行体験、そして13日には東京都江東区のシティサーキット東京ベイにてEVカート体験が行われた。13日は初心者向け体験コンテンツの他に、国内Aライセンスが取得できるコースも設定。今後KINTOはモータースポーツへどのような関わりを考えているのかを探ってみた。

 最近よく耳にするようになった“KINTO”。このKINTOが提供しているのは自動車を定額料金で利用できるサブスクリプションサービスだけではない。意外に思う方もいるかもしれないが、実は絶版旧車のレンタカーやキャンプイベントの企画運営など多岐に渡る。トレンドのひとつと言える実際に物事をユーザー自身が経験する「コト体験」のサービスも提供しているのだ。

 そんなサービスの中で、KINTOとしては将来的にモータースポーツに関する新たなサービス展開を計画している。モータースポーツに参加するというコト体験の提供を見据えているのだ。今回のイベントは、本格始動に向けた実地試験といった目的が兼ねられているとのことだった。

レンタカーもある袖ヶ浦フォレストレースウェイでのサーキット体験イベント

サーキット体験@袖ヶ浦フォレストレースウェイ
開催日:2024年12月6日
開催地:袖ヶ浦フォレストレースウェイ(千葉県袖ケ浦市)
主催:株式会社KINTO

 まず12月6日に袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催されたサーキット体験会の模様をレポート。このイベントは一般の参加者にサーキット走行をリアルに体験してもらおうという趣旨で開催されており、すでにサーキット走行を経験している参加者もいれば、初のサーキット走行という参加者もいた。そんな中でKINTOらしいと感じられたのが車両のレンタルサービスがあった点だ。

 本格的なサーキット走行を行うにあたり、自身で車両を用意し最低限のメンテナンスをして準備を行わなければいけないというイメージがあったが、レンタルサービスを利用すれば車両を所有していなくてもサーキット走行を楽しむことが可能となる。KINTOとしては、そのような車両準備段階でのモータースポーツのハードルの高さを払拭したいという狙いがあるようだ。

講師がデモンストレーションを行う車両やセーフティカー、参加者が乗車できるサーキット走行可能なレンタル車両として、トヨタ・GRスープラやGRヤリス、GRカローラが用意された。
会場にはTOYOTA GAZOO Racingのラリーチャレンジ車両やトムスのコンプリートカーを展示してモータースポーツへの興味を惹かせた。また軽食や飲み物も用意されていて、サーキットでのホスピタリティを向上させるような試みがなされていた。

 今回のサーキット体験走行では、インストラクターが実際に指導を行う。そのインストラクターを務めたのは第一線で活躍する猪爪杏奈選手といとうりな選手の女性ドライバー2名。加えてラリーでコ・ドライバーとして活躍する梅本まどか選手がインストラクター兼会場MCを担当し、華やかな雰囲気に包まれていた。

 このメンバーをインストラクターとして招聘した理由を、イベントをプロデュースし、チーフインストラクターと総合司会を務めたレーサー鹿島氏に尋ねたところ「カートを経て育成からステップアップしてきたドライバーではなく、免許を取得してからモータースポーツで経験を積んだドライバーの方が参加者の気持ちに寄り添えると思います。そういったドライバーの中で参加者とのコミュニケーションが取りやすいドライバーを選出しました」とコメントしていた。

 当日のイベントは、受付後にまず車両の準備に入ることからスタート。マイカーでの参加者は荷物を降ろしたり、ホイールの締め付けトルクチェックなど、走行会では定番となっている手順やマナーが伝授された。サーキットでは当たり前のことも初めてならば知らなくて当然、経験者であっても、当たり前すぎて今さら聞きにくいということもあり、基本のキから丁寧にレクチャー。モータースポーツへの第一歩を踏み出す場としての環境と、その雰囲気を整えていきたいという想いが見える風景であった。

 また、走行する上で重要なタイヤの空気圧についてもこの場でレクチャーがあった。ブリヂストンの担当者が立ち合い、エアゲージの使い方から冷間と温間の違い、狙うべき空気圧や上り幅の目安などをアドバイス。もちろん、初心者向けイベントなのでエアゲージのレンタルなども用意されていた。

 その後はドライバーズブリーフィングを実施。講師陣のドライバー紹介とともに、ピットイン/ピットアウトの方法、フラッグの説明などサーキットでの基本的なルールとマナーを座学で勉強。そして、実際にコースを走る上での注意点や攻略が難しいポイント、ポストの位置など袖ヶ浦フォレストレースウェイならではのローカルな点に関する注意の説明がなされた。

インストラクターや進行役としてモータースポーツで活躍しているドライバーたちが参加。左からレーサー鹿島氏、梅本まどか選手、いとうりな選手、猪爪杏奈選手。
フラッグの種類や意味、サーキットを走る際に必要不可欠な基本事項が説明され、参加者の皆さんは真剣な面持ちで聞き入っていた。

 走行プログラムとして、まず“広場トレーニング”とコースを覚えるための先導付き“慣熟走行”が行われた。広場トレーニングとはフル加速から旋回して、最後はフルブレーキで止まるといった内容のもので「走る、曲がる、止まる」の基本が濃縮されたカリキュラム。クルマの限界を知るため、そして何よりABSを作動させてのブレーキングを体感しておくことが狙いだ。フルブレーキが実際にできるのとできないのとでは、アクシデントを未然に防ぐ能力が大きく異なってくる。

 こうした初心者向けの練習を経て、いよいよ待望のフリー走行へ移行。今回はタイム計測なしで走行が行われた。イベントの狙いは、あくまでもスポーツ走行の楽しさを実感してもらうことにある。タイム計測を行うと、タイム短縮を求めるあまり、予期せぬアクシデントが起こる可能性が高くなるというのが理由だ。20分間のフリー走行は合計で4本(1本は先導付き)行われ、初めてサーキット走行をする参加者にとっては盛りだくさんと言えるボリューム感になったことだろう。

サーキットコース隣接の広場にて発進、旋回、停止の基本的な操作を練習。講師陣が外から無線でアドバイスしていた。
フリー走行の1周目はインストラクターの先導でコースを周回。無理のないペースで徐々にスピードを上げて慣らしていったので、初心者でも安心してサーキットを周回できていた。
フリー走行枠の後半になると、自信を持ってコースを攻める参加者が数多く見られた。

 ランチタイムではインストラクターを務めるドライバーのトークショーが実施された。それぞれのモータースポーツとの関わりやキャリアに関する話から、参戦しているカテゴリーに関する疑問など幅広い話が展開された。

 そして再開されたフリー走行の合間には、トークショー形式のレクチャーが行われた。ライン取りからタイヤの使い方など、参加者からも積極的に質問が寄せられるほど盛り上がった。各々の疑問点を共有できるとあって、自身が分からないこと以外に新たな気づきも得られ、有意義な時間となった。このようなトークショーはサーキット体験型イベントには向いているプログラムと言えるだろう。

 また、インストラクター陣の助手席に座れる同乗走行という貴重な経験も。この同乗走行を体験した参加者に話を聞くと、「ライン取りを学べると同時に、広場トレーニングや各種レクチャーで話されていた基本的なクルマの動かし方を感じることができました。助手席で体感することで、より具体的にイメージがつかめて良かったです」と収穫があったようだ。

ランチタイムに行われたインストラクターたちによるトークセッションでは、モータースポーツ関連の話はもちろん、普段聞けないプライベートな話題も飛び出し、会場は和やかな雰囲気に包まれた。
インストラクターの運転による同乗走行では、本格的なスピード域と旋回Gに息をのむ参加者が多かった。同時に、ライン取りやハンドル・ペダル操作のタイミングが理解できたという声も。
分からないことがあったらすぐに聞けるといった、インストラクターと参加者の距離の近さも魅力のイベントとなった。

 こうして無事に1日のコンテンツが終了。実際にGRヤリスをレンタルして体験走行した方に話を聞くと、「とても楽しかったですね。速いクルマなので気をつけながら走行しましたが、コース上にいる台数が少ないため、慣れていない自分でも走りやすかったです」と振り返っていた。確かに、このイベントは1回の走行時のコースイン台数が5~7台であるためとても走りやすいことが挙げられる。そのような環境も初心者に向いているといえる内容だった。

Aライも取れるシティサーキット東京ベイでのEVカート体験

EVカート体験@シティサーキット東京ベイ
開催日:2024年12月13日
開催地:シティサーキット東京ベイ(東京都江東区)
主催:株式会社KINTO

 続いて12月13日にシティサーキット東京ベイにて開催されたEVカート体験の模様に触れていく。インストラクターは、袖ヶ浦でのイベント同様に猪爪選手や梅本まどか選手、レーサー鹿島氏のほか、翁長実希選手と斎藤愛未選手が務めた。こちらも初心者へ向けた体験会という基本的な趣旨は変わらないが、アクセスしやすい都心でより気軽に間口を広げたいという狙いがある。シティサーキット東京ベイなら最寄り駅から歩いて2分のアクセスの良さで、関東近郊の多くの人が行きやすい場所だ。

都会的な景色の中にあるシティサーキット東京ベイは、EVカート専用のサーキットだ。この会場にもトムスのコンプリートカーが展示され、モータースポーツ熱を高めていた。
左から、袖ヶ浦でのイベントに続いてインストラクター兼MCを務めたレーサー鹿島氏と梅本まどか選手。新たに斎藤愛未選手と翁長実希選手を迎え、猪爪選手とインストラクターを務めた。

 イベント進行は、初級クラスと中級クラスに分けて行われ、まず昼の12時から初級クラスの受付が開始される。最初にコース走行に必要な装備品の確認。各種装備品はレンタル可能なので、手ぶらで来ても参加することが可能だった(フェイスマスクのみ持参、もしくは現地で購入)。その後は開会式とドライバーズミーティングが行われ、ルールやマナーの説明があった。

 参加者は3グループに振り分けられ、この日のインストラクターがそれぞれ担当グループを受け持つ形となった。フリー走行の前に慣熟走行が実施され、参加者がコースレイアウトやライン取りを理解しやすい工夫も。またフリー走行時もインストラクターが各車両を順番に先導し、よりハイスピードなライン取りを目の前で学ぶことができた。

初級クラスはインストラクターの先導でコースイン。スキルに合った速度でコースレイアウトや走行ラインを確認していく。
走行の合間に、理想のライン取りやアクセルワークなど、どうすれば速く走れるのか熱心に聞く参加者たち。インストラクター陣も的確にアドバイスしたため、参加者はメキメキと腕を上げていた。

 1本の慣熟走行と2本のフリー走行の合間には、2人乗りカートを使用した同乗走行とインストラクター陣のデモレースを披露。レベルの高い走りとバトルに参加者は驚きを隠せない様子だった。

 初級クラスの最後はレース体験だ。グループをタイム順に2グループに分け、実際にスタンディングスタートからレースが行われた。グループごとに表彰式を行い、最後はインストラクター陣のサインが入った各々の走行写真がプレゼントされるというサプライズも。

 初級クラスの後に行われた中級クラスにはアドバンスレッスンとAライセンスチャレンジの2つのプログラムが用意されていた。フリー走行や同乗走行からスタートし、ライセンス取得希望者は並行してライセンス講習とフラッグテストが実施された。

 中級クラスではレース体験と修了式の後に、希望する参加者向けにアフターパーティーとしてBBQの時間が設けられていた。インストラクター・MC陣や参加者同士でのコミュニケーションを図りつつ、楽しい時間を過ごした。

同乗走行では、実際に出したい速度と通りたい走行ラインを体感できた。アクセルを踏んでいくと、壁際ギリギリを通ることやハンドルを切るタイミングか早くなることなど学べたようだ。
インストラクター陣によるデモレースが行われ、速度域の違いに参加者らは目を丸くするほど。2024年のKYOJO CUPではチャンピオン争いを展開した斎藤選手と翁長選手。このイベント当日はその最終戦前とあって、コース上での熱戦はもちろん、バトルが終わった後も白熱の舌戦が繰り広げられていた。
最初はおっかなびっくりだった初級クラスでも、最後に行われたレース体験では、中級クラスに引けを取らない速さでバトルを展開するまでに成長した。
中級クラスは夜間走行となった。こうした夜景の中でバトルを展開できるのも、イベントの魅力のひとつになっていた。
初級クラスに参加した皆さん(写真左)と、中級クラスに参加した皆さん(写真右)。

 先にも少し触れたが、今回のイベントの中級クラスには国内Aライセンスが取得できるプランが設定されていたことについて補足しておこう。国内Aライセンスの取得にあたっては、まず国内Bライセンスの公認競技に参加するのが一般的だ。あるいは、サーキット等での講習会と模擬競技、もしくは公認サーキットでのスポーツ走行を経て、1日で国内Aライセンスを取得する方法等もある。

 だが、ライセンス取得時の大前提としてマイカーが必要なため、マイカーの有無が取得のハードルを高めているのも事実だ。今回のようなレンタルEVカートを使用するケースであれば、マイカーがなくともライセンス取得が可能になり、そのハードルは一気に下がる。

 最近ではモータースポーツの車両レンタルサービスを展開しているショップがあり、ライセンス取得後のモータースポーツ参戦も容易になりつつある。こうした背景を鑑み、電車でアクセスできる都市型サーキットでの国内Aライセンス取得プログラムできっかけをつくり、将来的に競技車両をKINTOでレンタルしてもらう、そうした考えがうかがえる。

 本イベントの国内Aライセンスの取得は、JAF公認クラブである「ブレインズモータースポーツクラブ」が、講習を受けてレースを行った参加者を推薦する形が採られた。シティサーキット東京ベイでは、実際のフラッグはもちろんのことデジタルフラッグも一部運用されている整った環境であるため、国内Aライセンスを取得するにあたり、モータースポーツのルールをきちんと理解しているかどうかを判断できる場として活用できると踏んだようだ。

 今回、9名が実際に国内Bライセンス講習と国内Aライセンス講習、そしてフラッグテストとレースに挑戦、無事に全員が合格することができた。誰でも簡単に合格できるというわけではなく、ブレインズモータースポーツクラブとしてもしっかりと試験や講習での内容を見て問題ないと判断をしたがゆえの結果だ。とはいえ、アクセスに長けた都心のカートコースでライセンス講習会ができるのは、これから国内Aライセンスを取得しようと考えている人にとっては、とても画期的な試みだったと言えるだろう。

今回のイベントでライセンス講習やテスト判定等を担当した、JAF公認クラブ「ブレインズモータースポーツクラブ」の三城伸之事務局長。EVカートでの国内Aライセンス取得は国内初の試みとみられる。
講習の内容はライセンスの種類やモータースポーツ用語の基礎、レース競技中に出されるフラッグ表示の意味など多岐に渡る。受講以外にもライセンス申請用紙の記入など手続きに関する必要項目が多くあることから、参加者は集中して臨んでいた。
レース中に出される旗信号の意味を瞬時に理解できるかを見極める、フラッグテストの様子(写真左)。また、モータースポーツでは決められた規則に則った行動が取れるかが、テクニック以上に大切であることをライセンス取得希望者以外にも周知していた。

モータースポーツのサブスクが今後広がりを見せるのか

 KINTOとしては近い将来、サーキット走行が可能なサブスクリプション車両の導入を具体的に検討しているとのこと。サーキット走行会仕様のコンプリートカーから始めて、ゆくゆくはラリーチャレンジやヤリスカップ、GR86/BRZカップなどナンバー付きのモータースポーツ車両のレンタルプランやサブスクリプションサービスの展開も視野に入れているそうだ。その他、レーシングスーツやキャリーケースなど各種装備品も含めたKINTO独自のサービスでイニシャルコストをリーズナブルに抑えられるプランも模索中の様子。

 これまでモータースポーツへの参加となると、ライセンス取得までの準備やその過程で、イニシャルコストの高さがハードルとなっていた。しかし、KINTOのモータースポーツ関連サービスが本格化すれば、定額的で見通しの立てやすいランニングコストのみでモータースポーツへチャレンジすることができるかもしれない。実現したあかつきには、モータースポーツ人口が増えるきっかけになる可能性を秘めている。こうしたKINTOの取り組みに注目したいところだ。

フォト/長谷川拓司 レポート/西川昇吾、JAFスポーツ編集部

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