武藤壮汰選手が2025 Asia Pacific Motorsport ChampionshipのEスポーツ部門iRacingで王者に!

インタビュー Eスポーツ

2025年11月18日

モータースポーツのアジアNo.1を決める大会「2025 Asia Pacific Motorsport Championship」のEスポーツ部門iRacingに日本代表として参戦した武藤壮汰選手が、異国の地・スリランカで優勝を果たし、日の丸を掲げて表彰台の頂点に立つという快挙を成し遂げた。大会に参加した経緯や会場の雰囲気、競技の様子などを交えつつ、日本を代表する選手としてこれからのEモータースポーツについてを語ってもらった。

 Asia Pacific Motorsport Championship(APMC)は、アジア太平洋地域の各国モータースポーツ統括団体(ASN)が共同で主催する大会で、国際舞台での活躍の場を欲する競技者に認知機会を提供することを目的とし、地域における各競技分野のトップレベルの選手が一堂に会するイベントである。第1回大会は2023年にマレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットで行われ、第2回大会となる2025年はスリランカのスリランカ・カーティング・サーキットで開催された。

 カートスプリント、カート耐久レース、カートスラローム、ジムカーナ、クロスカーオートクロス、そしてEスポーツという多様な競技カテゴリーを網羅した大会内容となっており、今大会に先立ってJAFからEスポーツ部門への参加について公示。大会前に行われた予選大会を経て出場選考がなされた結果、JAFが公認するEモータースポーツ国内リーグ「UNIZONE」で名古屋OJAの一員として参戦する武藤壮太選手に決まった。なおEモータースポーツの国際競技への参加資格としてFIAが新設した「国際Eスポーツドライバーズライセンス」も発給されている。

 その予選大会について、武藤選手はFIA-F4車両&岡山国際サーキットという課題で行われたオンライン予選に自宅から臨んだ。時期としてはUNIZONE e-Motorsport Leagueの最終戦に近く、UNIZONEとAPMCそれぞれのルールで練習をする必要がある過密スケジュールだったが、自身が代表を務めるチーム「465garage」のメンバーとの特訓を行ったとのこと。その成果もあって、15か国中1番手のタイムを記録。スリランカで行われる決勝大会へコマを進めた。

「FIA-F4と岡山国際という組み合わせはあらかじめ発表されていたので、F4が得意な465garageのメンバーに走らせ方のコツやセットアップのアドバイスをもらって予選に挑みました。そしてiRacingのF4プロライセンスを所持してる名古屋OJAの齊藤祐太選手や群馬ダイヤモンドペガサスの小此木裕貴選手とガッツリ走り込みましたね」と武藤選手は予選に向けての練習を振り返った。

武藤壮汰選手は今シーズンのUNIZONE e-Motorsport Leagueでは名古屋OJAに所属し、圧倒的ともいえる走りを見せて年間成績1位ドライバー、そして年間成績1位チームにも確定している。

 2025年のAPMCの開催日程は9月26~28日で、武藤選手は9月23日のUNIZONE最終戦を終えると急ピッチで単身スリランカへ渡航し、慌ただしい日程をこなす。スリランカにおけるEモータースポーツ、ひいてはモータースポーツについて、日本にはその情報があまり入ってこないことから認知度が低いイメージがあるが、実際のところ大会自体はどのようなものだったのだろうか?

「スリランカではモータースポーツの文化自体がまだまだ発展途上だな、というのが第一印象でしたね。ですが、すごくキレイなカートのサーキットがあって、そこに遊園地も併設されていて、近くにはミーティングスペースがあり……という設備が整った会場でした。そこにEスポーツの機材が準備されて大会が行われました」と武藤選手は語る。

「会場には知ってる選手がいました。マレーシア代表チームのAzlan兄弟(Assetto Corsaに参戦のNaquib Azlan選手、iRacingに参戦のNabil Azlan選手)ですね。そのほか会うのは初めての方ばかりでしたが、iRacingの中で名前だけは知っているプレイヤーもいました」と、オンラインで世界のプレイヤーとつながることができるEモータースポーツならではの“あるある”事例を挙げた。

APMC会場に用意された大会用シミュレーターと武藤選手。普段使用しているステアリングやペダルと異なるうえ、モニターも小型のもので、走行の感覚が自宅の環境とは大きく違っていたのだという。

 大会初日の9月26日、Eスポーツ部門のタイムスケジュールとしては練習走行のみ。翌27日は同じEスポーツ部門のAssetto Corsaがメインで、A/B/Cの3グループに分かれて準々決勝、準決勝、決勝が行われていく。武藤選手が参戦するiRacingも28日に同様の流れで競技が実施されることとなっていた。なお初日のiRacingの練習走行では武藤選手がグループ内でトップタイムを記録し、参加者全体の中でもトップタイムを刻んだ。

 1日のインターバルを経て臨んだ28日、「最初に行われた準々決勝は機材への対応に苦労している選手が多かった印象ですね。この時点では個人個人のタイム差が大きくて“安全に走ればOK”という感じのレースだったんですけど、準決勝、決勝とコマを進めていくにつれて周りのレベルも上がってきたと感じました」

「決勝のグリッドを決める予選タイムアタックでアウトラップにハーフスピンするミスをしてしまいました。一度ピットに戻らなくてはいけなくて、大急ぎで再びアウトラップに行って、とりあえず1周回って……という状況で、何とか2番手グリッドが獲得できたという感じでした。危なかったですね」と苦笑する武藤選手。

武藤選手は海外でもiRacingのトッププレイヤーとして人気を博している。ライバルである選手に記念撮影をお願いされることもあったそうだ。一緒に写っているのはマレーシア代表のNabil Azlan選手。

「大会を通してまずはNabil Azlan選手との一騎打ちという内容が多かったと思います。それと予選のタイムアタックでは僅差でしたが、オフラインの大会に慣れている選手は少なく、中には今回のためにiRacingを始めたという方もいたほど経験値に差がありました。その点で日本でのUNIZONEや、今までの大会で経験を積んでいた分のアドバンテージはあったと感じましたね」

 決勝レースまでコマを進めた武藤選手は、ポールポジションをNabil Azlan選手に譲るも2番グリッドからスタートし、20分間のレースでNabil Azlan選手の隙を突き、見事逆転に成功する。最終的にはNabil Azlan選手に対し2.432秒差のギャップをつけてAPMCのEモータースポーツ部門iRacingを制することとなった。

「国際大会で勝てたのは2018年に中国で開催されたWorld Electronic Racing Championship以来です。日本代表として正式に参加した大会で勝って日の丸を掲げられたのはすごくうれしいし、スリランカはまだまだモータースポーツ発展途上という中で、APMCの競技にEモータースポーツが取り上げられて大会が実施されたこと自体がうれしいです。これがこの先につながると良いなと思っています」とコメント。

 “アジア1位”という称号を手にした武藤選手、「今年はUNIZONEでチャンピオンを獲り、APMCでもアジア太平洋チャンピオンも獲れて、充実した1年だったなと思います。ですが世界にはもっと上の選手やレースがあるので、この先も勝ちたいですね。とくに来年開催されるであろうモータースポーツゲームス(2024年にスペイン・バレンシアで開催され、武藤選手はEsportsのGTで4位)では、今度こそ最低でも表彰台を勝ち獲りたいと思っています」と意気込む。

World Electronic Racing Championship 2018以来の国際大会での優勝。唯一の日本人選手で日の丸を掲げられた気分は格別だったと武藤選手は感想を述べる。

 2025年10月現在、26歳の武藤選手は名実ともにアジアを代表するiRacingトッププレイヤーとして君臨するわけだが、その成り立ちが気になるところだ。現在の活躍に至るまで、そもそもEモータースポーツとの出会いはどのようなものだったのだろうか。

「小さいころからクルマが好きで、レースゲームはグランツーリスモ3から始めました。中学生のころにPCを使ったレーシングシミュレーターという存在を知ってずっと遊んでいましたが、19歳のときに中国の国際大会に出ないかというお誘いがあって、参加してみたら勝って賞金がもらえて……というのが始まりですね」

「当時は“Eモータースポーツ”という言葉もなかったですし、ただゲームをして遊んでいるという感覚だったんです。でも時代が進んで、Eモータースポーツに関わってくださる方もどんどん増えていく中で、自身が選手としてこのカテゴリーの盛り上げ役となり、携わっていけたらという想いでやっているのが現状です」

 選手として“極めて速くなりたい”と思い始めたのはいつごろなのかを尋ねると、「う~ん……どうでしょうね」と笑いつつ、「iRacingにはiRatingという速さを示すスコアのようなものがあって、そのスコアを高めたいなという思いでやっていました。始めたときはまず日本1を目指し、世界トップ100、50……と目標を高めていくことに集中していました」と回答。

「当時はiRatingランキングでトップ25に入るとリーダーボードの1ページ目に名前が入るようになっていたので、それに載りたいなと思って頑張りましたね。このiRacingはアカウントをつくるとiRatingは1350から始まるのですが、今の自分のiRatingは10400ちょっとまで上がっています」(※参考までにUNIZONE参戦に必要な「UNIZONEライセンス」が発給される基準ラインがiRating4000)

APMC優勝者に贈られる金メダル。数ある種目の中で、日本人でこのメダルを手にしているのは武藤選手ただ一人である。

 iRacingのプレイヤーとしては黎明期から腕を磨いてきた武藤選手。世間一般へのゲーミングPCの浸透が遅いと言われている日本国内で、中学生のころからiRacingが起動できるスペックのPCが自宅にあった環境も、今の武藤選手を形成したキッカケのひとつと言えるだろう。

「父親が仕事で使っていたPCを借りて、ハンドルコントローラーは当時のグランツーリスモで使っていた1万5000円くらいのドライビングフォースGTという機材からiRacingを始めました。そのときは挙動がリアルかどうかなんてまったく気にしていませんでしたし、とにかくレースができたら何でもいいという感じでしたね。ちなみに夜中にプレイしてるときの騒音で両親にうるさいと怒られた経験もありましたが、国際大会優勝でもらった賞金を見せたら理解を得ることができました」

 iRacingでレースをするのが楽しいという一心でのめり込んだ武藤選手は、先述で挙がった国際大会で優勝を遂げ、以降もiRacingで輝かしい成績を残し続けている。そして現在はFIAフォーミュラ1世界選手権に参戦するウィリアムズのEスポーツ部門「ウィリアムズEスポーツ」に所属し、チームの一員として活躍するほど成長を遂げた。

2024年に開催されたモータースポーツゲームスの日本代表選考レース。日本代表の座がかかった中、Assetto Corsa Competizioneでも実力を如何なく発揮した。

 そんな武藤選手はEモータースポーツのトップ選手として戦う傍ら、リアルのモータースポーツへも活動の幅を広げている。実車でのレースデビューを目指してシミュレーターに取り組むこと自体は今や珍しくはないが、Eモータースポーツのトッププレイヤーである武藤選手はどのようなきっかけで実車のレースに参戦し始めたのか。

「2020年にアクセスさんのAccess Racing Simulator Cupがあり、その賞典で広島トヨペットさんの86に乗って岡山国際サーキットを走ったのが最初です。そのアクセスさんの大会は、元々は賞金を目当てに参戦した大会で、実車の体験走行は後からついてきた賞典でした。その後、アクセスさんと広島トヨペットさんがスーパー耐久に出場するという話になり、シミュレーターのドライバーとして乗せてもらえることになったのがレース参戦へとつながります」

「スーパー耐久のヴィッツでも運転している感覚はシミュレーターと同じで、“こういう動かし方したら速いだろうな”という理論は分かるのですが、実車はシミュレーターと比べて不確定な要素が多いし、前車とのマージンの取り方がiRacingと異なります。実際、分からないことの方が多い状態でした。ゆえにレースに挑むこと自体に最初は戸惑いがありましたね。」

 Eモータースポーツのトップクラスの選手でも、実車レースへの出始めはそれなりの苦労があったようだが、2022年、2024年、2025年と3シーズンにわたりACCESS RACING TEAMのACCESS BARDEN VITZでスーパー耐久を戦い、徐々にバーチャルとリアルの違いについて理解を深めていったようだ。

「シミュレーターは大会それぞれでクルマやコース、ルールが違うので、それに合わせた情報収集やセッティングの煮詰めが主な準備となり、運転自体はすでに仕上がってるので練習している意識はないです。実車はシミュレーターでコースを走って“この縁石は使える”とか、“ここでミスをすると大惨事になる”というポイントを探したり、AIと走ってブロックすべきところを把握するなど、同じシミュレーターを使っていても練習の内容が違いますね」

「リアルとバーチャルの違いを理解するまではぶつけてしまったりコースアウトしたりでチームに迷惑をかけてしまいました……」と苦労話をする武藤選手。

 一方で、フェラーリ448チャレンジEVOで争われるワンメイクシリーズのフェラーリ・チャレンジ・トロフェオ・ピレリ・ジャパンでは、参戦1年目にしてトロフェオ・ピレリのシリーズタイトルを決めている。その要因として「スーパー耐久の車両は市販車をベースに改造した、レースカーというよりはチューニングカーという雰囲気ですが、フェラーリ・チャレンジの車両は生粋のレーシングカーなので“ここを変えたらこう変わるだろうな”という予測がつきやすい。クルマの完成度が高いので、ある意味、毎回新車で走るシミュレーターの感覚に近いんです」

 つけ加えて「GT4、GT3とカテゴリーが上がっていくと、よりシミュレーターの感覚に近くなっていくんじゃないかなと思っています」という武藤選手が今一番乗ってみたいレーシングカーは“ポルシェカップカー”とのことで、「ポルシェカップカーはiRacingで一番難しいというか、運転の練習になるクルマという位置づけなので、実車ではどんな感じなのかなと気になってます」

実車で走る時間がなかなか取れず、基本的にシミュレーターでしか練習していないという武藤選手だが、フェラーリ・チャレンジ・トロフェオ・ピレリ・ジャパンではタイトルを獲得している。

 今後、Eモータースポーツがよりメジャーになるにはどうすることが良いかを聞いてみると、「フェラーリチャレンジはiRacingで車両が収録されたことで、レースの参加者も“シムをやりたい”という方が増えました。このようなシミュレーターの活用法はこれからも自然と増えていくと思っています」

「Eスポーツそのものをメインにプレイされる方を増やしていくには、色々な所で発破をかけていく必要があって、UNIZONEなどの大会に出て“すごいな”と思ってもらえるプレイを披露することだと考えています。モータースポーツにおいてはバーチャルとリアルの親和性が高いので、“どうせやるならリアルで良いじゃん”と言われないように、UNIZONEのように1大会で多種多様なコースやクルマでレースができるといった、Eモータースポーツにしかできないことをアピールしていくことが必要かなと思います」

「Eモータースポーツの魅力は“前でゴールした奴が一番速い”というところ。クルマの個体差などがなく、シミュレーターは画面の中では誰もが平等なので、その中で勝った人は一番速いとはっきりするのが魅力ですね」

PHOTO/遠藤樹弥[Tatsuya ENDOU]、後藤佑紀[Yuuki GOTOU]、UNIZONE、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS] REPORT/岡田衛[Mamoru OKADA]、JAFスポーツ編集部[JAFSPORTS]

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