勝田貴元選手、ほぼぶっつけ本番のWRC第10戦アクロポリスで善戦、6位完走を果たす

レポート ラリー

2023年9月14日

TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)からコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手とともに、2023年FIA世界ラリー選手権(WRC)に挑んでいる日本人ドライバー、勝田貴元選手。9月7~10日、ギリシャの首都、アテネから北西に位置する都市、ラミアを拠点に開催されたWRC第10戦「アクロポリス・ラリー・ギリシャ」に参戦。このラリーは1951年に初開催を迎えたクラシカルな一戦であり、ステージには大きな石が散乱する他、硬い岩盤が露出するなどハードなグラベルラリーとして知られる。このWRC屈指の“タイガーロード”に勝田貴元選手はマニュファクチャラー登録外ドライバーながら、TGR-WRTの4台目のGR YARIS Rally1 HYBRIDでチャレンジした。

2023年FIA世界ラリー選手権 第10戦「アクロポリス・ラリー・ギリシャ」
開催日:2023年9月7~10日
開催地:ギリシャ・ラミア周辺

9月7日・シェイクダウン、デイ1 / 9月8日・デイ2

前戦の「ラリー・フィンランド」で3位入賞を果たし、WRC通算4回目の表彰台を獲得した勝田貴元選手だが、「2022年は自分だけでなくチームとしても苦戦していて、パフォーマンスとしてもスピードとしても足りない部分がありました」とのことで、アクロポリスは課題の残るラリーとなっていた。

 それだけに、ラリーの事前に行われるプレイベントテストでセッティングを煮詰めたいところだったが、「山火事の影響でテストが延期されたんですけど、日程の関係で自分だけ参加できなかったのでやむを得ず、フィンランドでテストを行いました。3名のドライバーがテストをして、チームとしてはマシンの進化を確認できたということでしたが、個人的には不安要素の残る状態でした」と勝田貴元選手。

 さらにラリーウィークは厳しいコンディションに祟られ、「月曜日から水曜日までレッキが行われたんですけど、警報が出るほどの大雨で、本当にラリーができるのか、不安になるほどの状態でした」と勝田貴元選手は語っている。

 その雨の影響はデイ1を迎えた7日、木曜日まで続き、シェイクダウンのキャンセルが決定。「シェイクダウンが唯一、ラリー前に走れるチャンスでした。そこでセッティングを含めて自分に合ったところを探したかったんですけど、SSがテストになりました。フィンランドとアクロポリスでは同じグラベルでもまったく異なりますので、事前テストができなかったことで70%、シェイクダウンができなかったことで30%ぐらい事前準備ができなかったと思います」と、アクロポリスに向けた準備不足を語る勝田貴元選手。

「昨年、リザルトが良くて自信を持って臨むことができるようなら、もっと違うアプローチができたと思いますが、そうではなかったのでナーバスな状態でスタートを切りました」とのことで、勝田貴元選手はほぼぶっつけ本番の状態で、このラリーを迎えることになったのである。

 SS1は7日、アテネ市街地のスーパーSSで開催され、勝田貴元選手は7番手タイムをマークした。翌8日、金曜日のデイ2より山岳エリアで本格的なグラベルラリーがスタート。好天に恵まれたものの、路面はウエットやドライ、水たまり、泥など様々なコンディションが入り混じった状態で、「ドライビングもクルマも確認しないといけなかったので、様子を見ながら走っていました」と語るように勝田貴元選手は慎重な走りを見せていた。

 それでもSS6で5番手タイムをマークするなど、ペースアップを実現。「掴みきれていない状態で探りながらの状態でしたが、部分的にはペースが良かったので、落としていたところを改善していければ戦えると思いました」とのことで、勝田貴元選手は総合6番手でデイ2を終えた。

2023シーズンのWRC第10戦は、1953年に「アクロポリス・ラリー・ギリシャ」が国際格式ラリーとして開催を始めて70周年となる一戦。勝田貴元選手とコ・ドライバーのアーロン・ジョンストン選手は2022シーズンの第10戦以来、一度もアクロポリスの悪路を走ることなくSS1を迎えるも、パンクなどのアクシデントを乗り越えて総合6位。ボーナスポイントを含めて7戦連続でポイントを積み重ね、ランキング7番手につけている。

9月9日・デイ3 / 9月10日・デイ4

 9日、土曜日のデイ3は最も走行距離の長いループで過酷なラリーが予想される中、この日のオープニングステージとなるSS7で予想外のハプニングが勝田貴元選手を襲った。「フィーリングが良くてプッシュしていたんですけどね。スピンを喫して30秒をロスしてしまいました」というミスもあり、8番手タイム。総合順位でも7番手に後退した。

 それでも「長い1日なので生き残ることと、ペースを保つことを意識していました」と語るように、コンスタントな走りを続けていた勝田貴元選手はライバルのパンクにも助けられ、再び総合6番手に浮上してファーストループを消化した。しかし、リピートステージとなるSS10で冷却系のトラブルが発生。なんとかこのSSを走り切るものの、続くSS11では2度のパンクを喫したことから、勝田貴元選手はトップから約4分36秒遅れの36番手タイムに低迷することとなったのである。

「どのステージも岩が多いんですけど、雨で砂が流されたことでシャープな岩肌が出ていました。それがレッキでは水たまりになって見えなかったことが今大会でパンクが多かった要因だと思いますが、自分も2本のタイヤをパンクしてここで大きく離されたのでアプローチとしては、とにかくクルマをフィニッシュに運ぶことになりました。スペアタイヤもなくなったので、セーフティな方向に振って走っていました」とのことで、慎重な走りを続けた勝田貴元選手はデイ3を総合6番手のまま終えたのである。

 そして10日、日曜日のデイ4では「クルマのフィーリングは良かったのでパワーステージをプッシュしていたんですけど、ミスをする場面が多く、タイムをロスしていたので、後半はアプローチを変えてフィニッシュすることを意識しました」と語るように勝田貴元選手は最終のパワーステージとなるSS15を8番手タイムで終え、総合6位でフィニッシュした。

「土曜日のスピンとパンクがなければ、表彰台争いに絡めたと思います。小さなミスや運のなさが影響したので、今後は荒れた展開になれば、見極めながらプッシュしていきたいと思いますが、自分にできる最低限の仕事はできたと思います」と勝田貴元選手。同時にこのアクロポリスを戦ったことで、多くの手応えを掴んでいるようだ。

「昨年と比べてクルマは進化していて、ステージ上で感じることができました。昨年はグリップ感もトラクションもない状態で、接地感がないような感じでしたが、今年は全体的なバランスが良くなったことで、グリップ感もトラクションも改善していました」とラフグラベルラリーにおいても車両に対するフィーリングは好感触の勝田貴元選手。

 さらにドライビングについても「ドライビングの改善に取り組んできましたが、タイヤを摩耗させずに走ることができました。ペース的にも悪くなかったし、データ的にも目で見えるようになったので機能できたと思います。もちろん、ハードなベースにルーズなグラベルが載ったコンディションでは、アグレッシブになり過ぎるところがあるので合わせ込んでいきたいと思います」と勝田貴元選手は語っている。

 次戦、第11戦「ラリー・チリ」について「2019年にR5(現Rally2)で参戦していますが、ラリーGBのようなコンディションで、ハイスピードで走りやすい印象を持っています。路面はパックされていないので、グリップが低いことから、フィンランド内でGBをベースにしたテストを行なって準備を進めたい」と語っているだけに、9月28日~10月1日に南米、チリで開催される第11戦での勝田貴元選手の活躍に期待したい。

 なお、アクロポリスでは勝田貴元選手のチームメイト、カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組が2023シーズン3勝目を獲得。エルフィン・エバンス/スコット・マーティン組が2位につけたことで、TGR-WRTが1-2フィニッシュを達成した。

今季のアクロポリスを制したのはディフェンディングチャンピオン、TGR-WRTのカッレ・ロバンペラ(右)/ヨンネ・ハルットゥネン(左)組。総合トップを争っていたチームメイトのセバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組とHYUNDAI SHELL MOBIS WORLD RALLY TEAMのティエリー・ヌービル/マーティン・ヴィーデガ組が抱えたトラブルにも助けられたが、厳しいハードグラベルの路面でも大きなトラブルを出さず、SS15のパワーステージでもベストタイムを奪ってフルポイントを獲得。トップに立つ、ドライバー/コ・ドライバーとマニュファクチャラーランキングのリードをさらに広げた。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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