小雪も舞う難コンディションのなかフォーミュラリージョナルは小川颯太選手が戴冠!
2023年12月5日
2023年11月24~26日、スポーツランドSUGOを舞台に全5戦が組まれた2023 SUGOチャンピオンカップレースシリーズの最終戦となるRound 5が開催された。みちのく東北のモータースポーツの2023シーズンを締めくくる一戦は連日最高気温が10℃に達せず、時には小雪も舞った。厳しい空模様のなか、JAF地方選手権がかかるJAFフォーミュラリージョナル選手権(FRJ)とFIT 1.5チャレンジカップことJAFもてぎ・菅生ツーリングカー選手権(FIT 1.5)、そしてJAF菅生サーキットトライアル選手権(菅生サーキットトライアル)の王座争いが佳境を迎えた。
2023年JAFフォーミュラリージョナル選手権 第14戦・第15戦・第16戦
2023年JAFもてぎ・菅生ツーリングカー選手権FIT 1.5チャレンジカップ第5戦
2023年JAF菅生サーキットトライアル選手権 第4戦
(2023 SUGOチャンピオンカップレースシリーズRd.5 内)
開催日:2023年11月24~26日
開催地:スポーツランドSUGO(宮城県村田町)
主催:(株)菅生、SSC
2023年JAFフォーミュラリージョナル選手権 第14戦・第15戦・第16戦
FRJの最終三連戦には全9台が参戦。ランキングトップを独走してきた小川颯太選手と逆転王者をめざして最終決戦に挑むリアム・シーツ選手のほか、第9戦を制した奥住慈英選手、モビリティリゾートもてぎでの第9~11戦以来の参戦となるミハエル・サウター選手、同じくもてぎ以来の参戦で今季はスーパーフォーミュラ・ライツに足場を置いてきたエンツォ・トゥルーリ選手ら実力と速さを備えるドライバーがスポット参戦。小川選手vsシーツ選手の王座争いにどう影響するかに注目が集まった。
予選Q1・Q2
11月最終週とは思えない陽気に恵まれた木・金曜日の占有走行でセットアップが順調に進み、車両に「今季一番の手応え」を感じていた小川選手が、翌日から始まる最終大会での連続ポールポジション(PP)、優勝、そしてチャンピオン確定への期待に胸を膨らませていたとしても無理はない。ところが土曜の朝に北から降りてきた寒気団が、期待に胸膨らませる小川選手に冷や水を浴びせた。
「(車両を)金曜日の状態のまま走らせたのが仇となったのか、15分間の予選は2度ともタイヤが発熱せず、自分の運転がまったくできなかった」と嘆いた小川選手が第14戦5番手、第15戦6番手、第16戦4番グリッドに沈んだことは、チャンピオンを争うシーツ選手にとってチャンスになるかと思われた。しかし、シーツ選手もまた急激な気温変化と強風の難コンディションに手こずり、さらには両セッションで白線カットのミスを犯したことで第14、16戦のスターティンググリッドは小川選手より後方の6番手に撃沈。第15戦は辛うじて小川選手より前の5番グリッドを得たが、小川選手との28ポイント差を、決勝3レースで逆転するのが厳しいことに変わりはなかった。
Q1のベストタイムで第14戦、セカンドベストタイムで第16戦、Q2で第15戦のスターティンググリッドを決める予選でのフル参戦2選手のもどかしい走りとは対照的に、スポット組のサウター選手、トゥルーリ選手そして奥住選手は思い切りの良い走りで3レースの予選トップ3を独占。Q1・Q2とも1分18秒台前半のタイムを叩き出したサウター選手が3戦すべてのPPを決めたかと思いきや、Q1は白線カットでベストが削除となり、第14戦のPPはトゥルーリ選手の手に渡った。
マスタークラスの2台、近藤善嗣とスカイ・チェンの両選手は、サウター選手が記録したトップタイムの110%に届かず予選不通過に。チェン選手は決勝出走を断念し、近藤選手も第14戦の決勝グリッドへのインスタレーションラップでクラッシュを喫し、そこで今季を終えてしまった。
第14戦決勝
小雪がチラつく土曜の午後、22周で予定されていた第14戦の決勝は、気温低下によるタイヤの稼働不足への懸念から、3周のフォーメーションラップを経て20周で始まった。2番手から弾丸ダッシュを決めたサウター選手を先頭に、トゥルーリ、奥住、大木一輝の各選手、そして小川選手をかわしたシーツ選手の順に隊列は1コーナーへ進入。続く2コーナーでバランスを崩した大木選手がトゥルーリ選手に接触し、アウト側に押し出されたトゥルーリ選手は車両にダメージを負ってリタイアとなり、トゥルーリ選手を押し出した大木選手とジャンプスタートと判定されたサウター選手には10秒加算のペナルティが下された。
車両撤去のあいだ導入されたセーフティーカーが解除され、レースは5周目に再開。先頭のサウター選手はペナルティの10秒を解消すべくペースを上げて奥住選手との間隔を広げていったが、その差が4秒を超えたところでフィニッシュとなった。
「サウター選手はオールレッドの時点で動いたので、何らかのペナルティを受けることは明らかでした。ならば無理して前に出る必要もないと、タイヤを温存しながら自分のペースを守って走りました」と落ち着いたレース運びを見せた奥住選手が転がり込んだ勝利をしっかりキャッチ。シーツ選手が2位に入って逆転王者に僅かな希望をつなぎ、チャンピオン確定のためには無理をせず、安全第一のレースで確実にフィニッシュする方向に舵を切った小川選手が3位を堅守した。
第15戦決勝
第15戦の決勝は日曜の午前10時半、昨日からやや上昇したとはいえ相変わらず気温10℃に届かないコンディション下でフォーメーションラップが始まった。ところがその途中、3番グリッドにつくはずのトゥルーリ選手がまさかの単独クラッシュ。その回収でレースは10分遅れとなり、今回も3周のフォーメーションラップの後に20周で争われることとなった。
第14戦でのペナルティがトラウマになったのか、PPのサウター選手がスタートで大きく出遅れ4番手に後退。ポジション挽回をはかった2周目のSPコーナーでコースアウトを喫し、フロントウイングにダメージを負ったサウター選手はピットに戻ったところでリタイアとなった。
2番グリッドから落ち着いたスタートでトップに立った奥住選手は、使い古しのタイヤにもめげず、ミスを最小限に留める走りで背後に迫る大木選手の攻撃をシャットアウト。高い集中力でポジションを守りきり「サウター選手が速いので、今回はボロいタイヤで2位を狙い、次の第16戦を予選で使っただけのタイヤで勝ちにいく考えでした。大木選手とはワンミスで抜かれる距離だったしタイヤもかなりキツかったんですが、なんとか頑張りました」と、二連勝をマークした。
奥住選手の他に小川選手も古いタイヤを選択していたが、こちらは慎重に慎重を重ねる安定の走りで4位フィニッシュ。一方、優勝に僅かな希望を託し若いタイヤで勝負に出たシーツ選手は、狙ったほどのペースを出せないまま優勝を争う2台においていかれる格好で3位フィニッシュ。逆転王者の可能性をほぼ失ってしまった表彰台に、シーツ選手の笑顔はなかった。
第16戦決勝
前戦で壊したフロントウイングを修理したばかりのサウター選手がスタートでわずかに出遅れ、2番グリッドから好発進した奥住選手がトップを奪取。だが過去2戦でたまったフラストレーションを一掃するようなサウター選手の図抜けた勢いの前には奥住選手もなす術なく、5周目の2コーナーで2台の順位が入れ替わった。
「もうレベルが違うくらい速かった。ここまでのサウター選手はこちらが頑張ればなんとか抑えられるな、という感じでしたが、今回はもう全然、抑えようがないくらいの速さが見ていてわかりました」と二連勝中の奥住選手もお手上げの速さで一気に20周を駆け抜けた、サウター選手が嬉しいFRJ初優勝を飾った。
「速かった理由? 自分でもわからない。普通に走って、ペースがすごい良かった。本当にわからない(笑)」と満面の笑顔のサウター選手。父はスイス人、母が日本人のサウター選手は片言ながら日本語でのコミュニケーションを大事にしている。「タイヤは温まらなかった。距離を走ってないから。でもウイングが直って、マシンは予選と同じだった。アリガトウゴザイマス」とチームスタッフへの感謝も忘れない。
トップを明け渡し2番手に後退した奥住選手に、今度はこの週末まだチェッカーを受けていないトゥルーリ選手が急接近。2台はテール・トゥ・ノーズで3コーナーに進み、ここをチャンスと仕掛けたトゥルーリ選手が奥住選手のインに飛び込もうとしたが、奥住選手の守りは堅く2台はわずかに接触。バランスを崩してスピンしたトゥルーリ選手は3戦連続リタイアを喫し、持てる力を発揮することのないままSUGOを後にした。
その後方ではタイトルを目前にした小川選手が3番手を守っていたが、タイヤの発熱を促す方向にセットアップし直したことで一気にオーバーステアが進み、最後は追い上げてきた大木選手に対抗できないまま4番手に後退。それでもきっちりチェッカーを受けてチャンピオンを確定させた。
「チャンピオンはすごい嬉しいことですが、最終戦はいろいろとしんどかったので、まだ気持ちの切り替えができてない」と表情を曇らせる小川選手。「なかなか歯車が合わず、なんとか耐えていましたが、最後の2・3周はもうブラブラでした」と苦しかったレースを振り返った。
思えば絶好調だった木・金曜の占有走行から急転直下、まるでレースの神様にこれまで経験のない試練を与えられたような週末に、小川選手とFRJ参戦2季目で高木真一監督率いる、まだ若いバイオニック・ジャック・レーシングは翻弄されることとなった。だが、その場その場の勝負よりもチャンピオン確定という目標に意識を切り替え、達成したことは誇るべき事実だ。
「単純に僕の経験不足と引き出しが少なかった、ということだと思います。予選、決勝といろいろあった中で得たものもあった。でも解決策は見つからなかった。それはこれからのレース活動でみつける課題にしたい。この週末は、いままで勝ってきたどのレースよりも記憶に残るレースになりました」と前を向く小川選手の表情は、ようやく明るさを取り戻していた。
その小川選手とのタイトル争いに敗れ第15戦の表彰台ではうなだれていたシーツ選手。すべてを終えてヘルメットを抜いた表情はすっきりしていた。
「最後は思い描いたようにならなくて残念だったけれど、この1年、できることを精一杯やって、経験もたくさん積んで、ドライバーとして成長できた。このレースに参加して本当に良かった。来季はまだ白紙だけど、日本で、できれば上のカテゴリーでレースを続けられるように頑張るよ」。
そう笑顔でパドックを後にしたシーツ選手の言葉は、今季のFRJを戦ったドライバー全員の気持ちを代弁している。速さと実力を備え自分の力で未来を切り開こうとする若者たちの、シーズンを通した熱い戦いが再びみられることを心から願っている。
2023年JAFもてぎ・菅生ツーリングカー選手権
FIT1.5チャレンジカップ第5戦
予選
FIT 1.5の第5戦は土曜だけのワンデー開催。午前9時から行われた予選には5台のホンダ・フィットが出走し、ひとり1分38秒台をマークした前戦の勝者・尾藤成選手がPPを獲得した。「昨日の練習ではボロボロのタイヤで1分40秒5。今日は4本新品タイヤで一発を狙ってみたら38秒8台。このままのタイヤで決勝もいきます!」と意気軒昂な尾藤選手だったが、その決勝でまさかの落とし穴が待っていようとは.....。
一方、尾藤選手とチャンピオンを争うオオタユウヤ選手は1分39秒313で2番グリッドを確保。「タイヤの違いだよね。あちらは前後同じコンパウンド。ウチはリアに固いコンパウンドを着けている。決勝は後半勝負だと思ってます」と不敵な笑みを浮かべていた。
決勝
3℃だった予選から気温は少し上がったものの、決勝スタート時の気温はそれでも7℃。寒風吹きすさぶなかフロントロウの2台はともにドンピシャリのスタートを決めたが、そこからの伸びに優る尾藤選手がオオタ選手以下を引き離しにかかり、二連勝そしてチャンピオン確定へ突っ走るかに思われた。
ところが3周を過ぎる頃から尾藤選手の勢いが鈍り、逆に2番手のオオタ選手はファステストラップを連発しながら尾藤選手に急接近。後ろから中村義彦、横田剛そして最後尾の太田侑弥の3選手も2台に追いつき、全車テール・トゥ・ノーズ状態で迎えた6周目、最終コーナーからの登りでガクンとペースの落ちた尾藤選手の脇をすり抜けたオオタ選手がまずトップを奪った。続く7周目1コーナーの進入で中村選手が尾藤選手をパス。続けざまに順位を落とした尾藤選手は懸命の走りでポジションを取り戻そうとしたが、明らかに変調をきたしている車両にその力はなく、最終周の最終コーナーを立ち上がったところで横田選手にも先を越された尾藤選手は失意の4位フィニッシュとなった。
「突然トルクダウンしパワーが出なくなった。こんなこと初めてです」と肩を落とす尾藤選手。「スタートが決まって『よっしゃっ!』って叫んでたんです(笑)。その後でオオタ選手にじわじわ近づかれましたが、トラブルがなければ抑え切れたかと。でもアクセルを踏んでも全オフ状態ではどうしようもない。悲しくなりました」と無念の表情を浮かべていた。
2番手スタートのオオタ選手は「序盤のペースが伸びないことは折り込み済み」とレース中盤以降の尾藤選手との勝負を覚悟していたが、ライバルに降りかかったトラブル、そして何よりタイヤの使い方を知り尽くした自身の力強い走りで今季4勝目と初のJAFもてぎ・菅生ツーリングカー選手権チャンピオンを引き寄せた。
ポイント制が異なるFIT1.5チャレンジカップの王座争いが決着する2週間後の最終第6戦にむけて「だいぶ楽になりました」と余裕綽々の新王者オオタ選手だが、尾藤選手も負けていない。「クルマ自体はいい状態。トラブルの原因を突き止めて対策し、もてぎ戦は優勝して終わりたい!」と闘志をかき立てていた。
2023年JAF菅生サーキットトライアル選手権 第4戦
3クラス計12台が参戦した菅生サーキットトライアルの第4戦は、FIT 1.5とは逆に日曜だけのワンデー開催。正午頃にヒート1、このレースウィークを締めくくる最後にヒート2が行われ、ほぼ全員が気温、路面温度とも低かったヒート1でベストタイムを記録。今季のシリーズを締めくくるこの一戦で、チャンピオンが確定していたCT1クラス以外の2クラスのチャンピオンが確定した。
CT1クラス
2台の日産GT-Rがトップタイムを競ったこのクラスは、前戦の優勝で二連覇を決めた芦名英樹選手がヒート1でSUGOでの自己ベストを更新。「昨季はただ闇雲に走ってましたが、今季はデータの収集と分析、それからフィジカルトレーニングに日頃から時間をかけてきました」と連覇の奥義を語った。
日々の努力を欠かさない芦名選手をしてもいまだ超えられないのが、同じヒート1でSUGOのコースレコードとなる1分29秒771を叩き出したサーキット走行の師匠、相澤真選手だ。「エンジンパワーは芦名選手とほぼ同じ。ウチはメカニックが足回りを詰めてくれて、タイヤをきれいに使えたことでタイムを稼げた。芦名さんも少し詰めたら同じどころかすごいパフォーマンスになりますよ」と語った。
弟子の成長に目を細める相澤選手は2024シーズンもタイム狙いのスポット参戦を予定しており、「師匠にどうアプローチしていくか、そこが来季の課題」という芦名選手の師弟対決の行方が今から楽しみだ。
CT4クラス
スズキ・スイフトスポーツを駆ってランキングトップに立つ松橋豊悦選手が、4度目のSUGO走行とは思えないリズムに乗った走りで、1分37秒527のコースレコードで優勝。2勝を挙げて最終第4戦を残して確定させたJAF岡山国際サーキットトライアル選手権の同クラスに続き、両シリーズとも初チャンピオンで二冠確定となった。
「去年12月の岡山戦が今回と同じような極寒で、空気圧などその時のデータとセットアップが活きました」と松橋選手はやりきった感に顔を輝かせたが、「レベルがちょっと図抜けている」というJAF筑波サーキットトライアル選手権のこのクラスでランキング2位に終わったことには無念の表情。「自分ではまだ伸びしろがあると思ってます。各シリーズの日程が重ならなければ、来季もできる限り挑戦したい」と、新たな課題に意欲を燃やしていた。
CT6クラス
3年連続4度目のチャンピオンをほぼ手中にしていたスズキ・カプチーノをドライブする吉崎久善選手が、低温に足下をすくわれスピンするライバルたちを尻目に、タイヤを効果的に発熱させる熟練の走りで文句なしの優勝。見事チャンピオンを確定させた。
「今年はクルマが不調だった筑波の初戦以外は順調でした」という吉崎選手だが、その筑波で有効ポイント制の関係でJAF地方選手権タイトルを逃したことが今季の心残り。「筑波では(マツダ・)ロードスター勢がどんどん成長しているんです。私は絞り出してのタイムで、なかなか伸びしろがない」と弱気に見える吉崎選手だが、本心では来季もSUGOの王座を手放すどころか、逃した筑波のタイトルも獲り返す意欲満々と見受けた。
CT4を制した松橋選手と同様、吉崎選手も日程次第では来季の参戦シリーズを絞らざるをえない可能性もあるという。「SUGO戦はサーキットでの走りだけでなく、自宅から下道を使った移動も楽しみのひとつなので」とSUGOへの参戦継続と、筑波をはじめ各シリーズの日程再調整に期待を寄せている。
フォト/森山良雄 レポート/段純恵、JAFスポーツ編集部